Rick

シビル・ウォー アメリカ最後の日のRickのレビュー・感想・評価

4.2
 むき出しの暴力を前にして、人には何ができるというのだろうか。人があっさりと殺され、蹂躙される姿を目にすると、身体は強張り、何も見なかったふり、関わりを持ちたくないと思わざるを得ない。暴力以外の対話が不可能になった時、それは絶望の時である。もしかしたら暴力を手に取り、戦争というコミュニケーションに入ることも一つかも知れない。ただ一方で、また別の方法もあるかも知れない。分断の両極に立つのではなく、冷徹な視線で見つめ、記録すること。撃つことなく、撮って残すこと。写真や映像を残すことそれ自体には現状を変える力はない。目の前の人権の損壊を止めることをしない以上、非人道的な行いだとも言える。何が最善な行為なのかはわからない。ただ現状に向き合うために必要な行いなのである。
 内戦状態に陥ったアメリカを、ニューヨークからワシントンD.C.までの短く長い道のりで地獄めぐりをしていく今作。ドキュメンタリックに撮られているが、決してリアリティに塗れているわけではない。人種問題、貧富の差、思想など、現世界にある諸々の分断を基礎として、そこの上に建てられた寓話のような作品である。ただただ音が、状況が怖く、見終わった後にはどっと疲れる。
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