ゆうゆ

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのゆうゆのレビュー・感想・評価

5.0

奥底に閉じ込めた声を雄弁に語るピアノの旋律、荒涼とした砂浜で異彩を放つその存在感はエイダの魂そのもの。ぞんざいに扱われ辿り着いた寂寥の地で鍵盤をひとつひとつ剥がされたピアノのように ゆっくりと解かれ開かれていく心とからだ、彼女に触れたくて その声(音色)に不器用に耳を傾けるベインズの匂いたつオス臭、武骨で本能的なシンパシーがエイダの激情と共鳴し彼女を覆っていた殻の うちに秘めた芯をそっと震わす。
交わしあう鍵盤のラブレターと無邪気な残酷、翼をなくした彼女の痛みと苦しみを葬る泡沫は海底の静寂(しじま)で永遠の眠りにおちていく



静と動の狭間、グレイッシュな浜辺で戯れる天使の舞は娘のフローラであり 聖母のようなエイダの内面の姿のよう。ピアノの分身を表すクリスタルな肌に漆黒のドレス、娘と姉妹のように寄り添うエイダのミステリアスな佇まいは 秘密の逢瀬を重ね背徳的な官能に触れることで熱を帯び大人びた色香を放つ。
登場人物たちの武骨さと繊細さ、粗野な地で惹きたつロマンティックの対比にクラクラ。それはJカンピオンの天才的な計算? それとも彼女の感覚的なセンスなのか、作品に散りばめられた相反するものが絡まりあい溶けあってゆく静かな情熱に終始ため息。以前は主要人物の誰にも共感できなかったのに 誰ひとり欠けても成立しないのではと思わせるほど、4人の感情に揺さぶられてとろけそうでした。
そしてエイダという人物像を聴覚で彩るMマイナンの耽美な音楽、感情によってその音色を繊細に変える「The Heart Asks Pleasure First 」は この映画の真の主役なのだと改めて認識させられる
傑作。
ゆうゆ

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