レインウォッチャー

アビゲイルのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

アビゲイル(2024年製作の映画)
3.0
" 誘拐した少女が踊る吸血鬼だった "。

コピー&予告でここまで言ってしまったら、あとは「誰から死ぬかダービー」しかやることがないのでは?と危惧していたのだけれど、そこはちゃんとその後にも何転か用意されていてえらい。

しかし、その増築されたドラマティックちっくなアレコレは、クライマックスやオチ、ていうかそもそものバレエも含めて「それをやりたいだけ」感が拭えない。いわば、必然性の貯金が不足しているのだ。
結果、絶妙に痒いところに手が届かないまま、おばかなホラーコメディをやりたいのか、意外とエモくしたかったのか、どっちつかずの後味となってしまったのは惜しかった。いくらアビゲイルちゃん(A・ウィアー)が狩りをしているといっても、やはり二兎を追う者は一兎をも得ず、だったのである。

じゃあ純ホラーエンタメと見るとどうなのかと言えば、確かに血はいっぱい出る。出るのだけれど、これもまた「出てるだけ」ではある。
肝心のアビゲイルも強いんだか弱いんだか(まあ、ナメてるっていう設定はあるんだけれど)って感じだし、屋敷内の追っかけっこにも緊迫感は薄めで、予告編以上にフレッシュな描写は少ない。少女・バレリーナ・吸血鬼、という手札からは予想の範囲内にあり、つまりは予告段階で見せすぎってことなのかもしれない。

さて先に一通り文句を資源ゴミに出しきったところで、今作にはもっと取り上げるべき美点がある。
それは何を隠そう、誘拐チームのハッカー兼ギャル(この二つが兼任される時代になったんじゃのう)ポジション、サミーの存在である。

演じるのはキャスリン・ニュートン、ブラムハウスの殺人鬼と陰キャJKが『君の名は』るホラー青春コメディ『ザ・スイッチ』が当たり役となったブロンドガール。明らかに善なるオーラを放つまるっこい瞳と太眉、今作の彼女がそれはそれは魅力的なのだ。

髪型(三つ編みエクステ)やファッション(レザー中心、多めタトゥー)も記憶に残るし、ケータイをいじるときや、角からひょっこり顔を出すとき…一挙手一投足に「軽さ」「ちょいダルさ」「カワイさ」が染み渡っている。
そして何より大事なこととして、誰よりも数多く・うるさく叫んでいた。2024年度天下一スクリームプリンセス選手権優勝候補だ。

正直、主人公格のジョーイ(M・バレラ)やアビゲイルより輝いていたと思う。特に、ジョーイ=バレラは『スクリーム5&6』に引き続きどちらかといえばクールめなお姉さんキャラ(今作は通り越してお母さんキャラ)なので、お互い良い対比になっていた。

今作はそんなサミー=ニュートンに出会えただけでも価値があり、それだけに中盤以降に彼女がああなってしまってからは貴重な推進力を失ってしまったけれど、そこも込みで実際に多くのオイシイ場面を彼女がさらっていたようでもある。この映画における彼女は、まさに吸血鬼も逃げ出す《太陽》のような存在だったのだ。

近年はMARVELに参戦!したりと大メジャー路線も見えている身ではあるけれど、また近いうちにどこかで目いっぱいキャーキャー叫んでいる彼女に会えることを願っている。

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ところで、洋画の吸血鬼ってなんでただフィジカル強めで血に飢えたモンスターになりがちなんだろう。
今作のアビゲイルも、折角のロリバb…じゃなかった、つるぺたババア属性があるのに活かしきれていない。ホラーを作らんとするアングロサクソンな皆々様は、漏れなく秋葉原と中野に修行に来るべきだ。