りんりんぱ

誰が為に花は咲くのりんりんぱのネタバレレビュー・内容・結末

誰が為に花は咲く(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

どこかふわふわして父親業が板についていない感じのする父親。分かりやすい父親像とは少し違う、拙さはあるが彼なりに娘を愛しているんだろうなとか、友だちだったらいいヤツなんだろうけど、という印象。

観ている側もどこかで、いずれ真犯人が見つかるんじゃないか、犯人だったとしても不幸にしてそういう結果にならざるを得ない状況があったのではないかという一縷の望みを最後まで捨てられない。

でも、そんなきれいな解決はこの映画では全く叶えてもらえない。説明がない。生きているのか死んでいるのかも分からない。家族全員が抱える「なぜ、どうして、何のために」の疑問に一切答えを与えない。

残された家族が理解して受け入れて前へ進むための手がかりのようなものがないまま、時間だけが経つ。被害者やその家族に対してどう気持ちを寄せればいいかも分からないで放置されている。

観客にも説明されないので、その不可解さ、理不尽さを否応なしに体感することになる。これが自分の現実に起きていたらと思うと絶望的な気持ちになる。

「理解できない」、「説明がない」。
これが重大犯罪によって何かを失った人たちの不幸の根源かもしれない。

そんな中で主人公の強さ、優しさ、人間としての強さが際立つ。共感と敬意を覚える。果てしない絶望を前にそれでも家族を思いながら、他人の気持ちを理解しながら必死の生きている姿に心を打たれる。

そして衝撃のエンディング。

こんなにも胸が抉られるとは思わなかった。
観終わって2日たった今も「なぜ、どうしてそんなことを、いやでもやっぱり、、」と考えてしまう。

作られた物語だと分かっているのにこんな風に思うのは、父親(マツモトクラブ)の逃走前のエピソードが目に焼きついているからだ。その後の犯罪を予測させるような明確な伏線や性格の提示はない。ただ、なんとも不思議な、微妙すぎて言葉にできない、微かな違和感を残す演技。

その僅かな違和感が、その後の説明なき犯罪と失踪に不気味なリアリティを生じさせていたと思う。

こんなに後を引く映画も珍しい。
気持ちがざわつくから、上映しているうちにもう一回観に行ってこようと思う。
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