ジャン黒糖

ツイスターズのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ツイスターズ(2024年製作の映画)
4.0
1996年のヤン・デ・ボン監督によるディザスター映画『ツイスター』の世界観を継いだ最新作。
『ザリガニの鳴くところ』のデイジー・エドガー・ジョーンズ、今年の自分最推しにして『恋するプリテンダー』で90〜00年代ロマコメ映画を見事復権した立役者グレン・パウエル、『イン・ザ・ハイツ』のアンソニー・ラモス共演。
脚本は『レヴェナント』などのマーク・L・スミス。
監督はまさかまさかの『ミナリ』などのリー・アイザック・チョン!!
台風描写のケレン味が弱かったり、細かい伏線がおざなりだったりと気になるところはあるものの、主演の魅力によって2020年代に描く大作系ジャンル映画としてまったく申し分ないほど楽しい1本だった!

【物語】
ニューヨークで自然災害の予測、防止対策を仕事とする気象学の天才ケイトは5年前、竜巻を"手なずける"ために開発した資材の実地導入を図った際、竜巻に近付き過ぎたことを理由に悲惨な悲劇に遭遇する。
そして現在、かつての仲間ハビと再会したケイトは故郷オクラホマで竜巻が連続発生していることを知らされる。

過去のトラウマから躊躇うも見過ごすこともできずオクラホマに向かうケイトは、"竜巻シーズン"になるとオクラホマ州周辺一帯の"竜巻街道"に集まる竜巻チェイサーに会う。
野次馬のように群がる人たちもいるなか、一際歓声の挙がる中心には"竜巻チェイサー"系人気YouTuberのタイラー一行の姿があった。
最初は煙たがっていたケイトだったが、連続発生する竜巻を前に、ハビたちと行動を共にしながらもタイラーたちとも協力していくようになり…

【感想】
夏の大作映画として最高!
ヤン・デ・ボン監督の前作を観たうえで鑑賞したけど、ドロシーをはじめとする目配せ程度なアイテムがある程度で、ストーリー自体は前作の予習が一切不要なほど単純明快で良かった!

たしかにストーリーの骨格そのものは驚くほど前作をなぞらえているとも言える。
過去に竜巻のトラウマを抱えた主人公が、トラウマを持っているハズなのに結局竜巻に果敢に立ち向かう職業に就いているというご都合な設定、主人公らが男女3人+竜巻の四角関係になる構図、威勢の良いストリート系竜巻チェイサー御一行vs資金潤沢な竜巻チェイサー、開発した資材を竜巻に巻き上げさせる作戦など、前作と本作、で比較しやすいほどストーリーの骨格要素は似ている。
でも前作を観ていないと楽しめない要素、伏線は一切ない!

というか、後述するラストをはじめ、作品のバランスや見せ方は現代に合うようアダプテーションされており、そこがむしろ自分的には好感ポイントだった!


前作はモロに三角関係with竜巻、も楽しむ映画だったところ、本作はハビvsタイラー、ケイト&タイラー、ケイト&ハビの対比によって竜巻に対する"方向性の違い"を楽しむバランスになっているのが良かった。

ケイトとタイラーは、同時発生する竜巻を目の前に東と西どちらを追うかの駆け引きや、穏やかな天気ゆえ今日は休んでお互い距離を詰めようとハッタリをかましながらの腹の内の探り合いなど、見た目は張り合っているんだけど、最新技術やデータに左右されない自身の経験≒人生の歩み方における気象学という共通項で認め合っていることがビシビシ伝わり、完全に竜巻を題材にしたロマコメが成立していて、観ているこっちの胸がざわつく笑
ただ、だからといってTHEロマコメ映画然とはしておらず、あくまでもこの2人の気持ちの高まりには大前提として気象学への情熱がそれぞれにある。
雲の動きを見て次のアクションを決めるケイトとか、あんまはONE PIECEの航海士ナミさんか、と笑
決して良い男♡良い女♡という下心がベースにある話ではないところにこの映画の現代らしい健全さが表れていると思ったし、恋愛の成就が映画の安易なゴールにならないで!とむしろ願いながら観ていた笑


ハビの所属するチーム、ストームパーは最新設備と統一感のある車両、制服で人工的な威圧感がある。
(パンフレットのプロダクションノート曰く、スターウォーズのストームトルーパーを意識した美術だったのだとか。なるほどストームパーってそこから…?笑)

ハビはハビで、お金のない学生時代には実現できなかったことを、お金もそれを実現できる技術もリソースもあるストームパーだからこそできるいま、画一的な彼らのなかでもがきながら行動する彼の姿に共感湧く。
ちなみに彼と行動を共にするスコットを演じたデヴィッド・コレンスウェットは次期スーパーマン役に決まっており、ヘンリー・カヴィルの線を細くした感じ、というイメージは初めて観たときから変わらず、本作最初に登場した瞬間から彼が出るとわからずとも「あれ!この人!」となった笑


一方、タイラー率いる"竜巻カウボーイ"たちはストームパーほどの潤沢な資金がないことを自認している。
この2つのチームカラーの違いは前者がリベラル派、後者が保守派なアメリカ人イメージに近しい。

ただ、タイラーの仲間たちは人種もジェンダーもバラバラで自由闊達な人たちで構成されており、見た目は野生的ながらそのカラフルな構成は実は現代的だったりする。
この2チーム間で主人公ケイトが竜巻の発生のように寄せては離れてを繰り返すバランスが面白いし、この2チームも二項対立になりすぎることない、安易に悪役を作らない&懲らしめない本作の品の良さは前作よりも好感ポイントだった。


途中、タイラーの仲間たちが嬉しそうに「フジワラエフェクト!」と言うセリフがあるが、これはパンフレットの用語解説曰く、2つの竜巻がぶつかることで両方とも本来と異なる進路に進み始める現象のことをいうらしく、観ている最中はニコニコでこの楽しいシーンを観ていたんだけど、観終わってみると本作が描く人間関係も、ある意味"フジワラエフェクト"が起きており、あながち根幹を成すセリフのようにも思えてくる。


そしてラストのラスト、前作ヤン・デ・ボン版のラストで一気に興醒めしてしまった個人的には大納得!
ジャンル映画お決まりのご褒美を二転三転裏切った末のラストカット、彼らの向かう先はどこか。
まさに「フジワラエフェクト!」とも言うべきラストカット→エンドクレジットの流れにもうニッコニコ!!


たしかに、不動産投資家やハビのいるストームパーの取る行動の是非が結局有耶無耶にされたり、見せ場である竜巻を見せるまでのタメ、ケレン味が弱かったり、CG表現の悪癖なのか竜巻に耐えてるときの握力が掛かっているような緊張感が感じづらかったり、と気になるところはあった。

ただ、これら気になるところに比べたら本作の良かったところの方が観終わったあとに残る感慨は大きかった。
唯一小さくない気になった点は、物語的に停滞する中盤のケイトの過去をめぐる展開で、ここは正直「あれ、みんなはいま大丈夫かな」と竜巻の発生状況が気になってしまった笑



Netflixで配信されているリミテッドシリーズ「アースストーム 牙をむく大自然」で解説されていた内容曰く、米国では毎年1,200件以上の竜巻が発生しており、これは米国を除く世界の発生数の4倍にあたるという
うち、1%がEF4にあたり、数年に1回EF5は発生するという。
また、近年の気候変動によって従来の竜巻発生地域以外での巨大竜巻が発生し、多大な被害をもたらすケースが増えているという。
このアメリカ人にとって身近な話題ゆえか、アメリカでの大ヒットに繋がったのかなと。

主演2人最高だった。
陽性感を強めたシャルロット・ゲンズブールというか、ほんのり陰の要素のあるアン・ハサウェイというか、デイジー・エドガー・ジョーンズは主人公としてしっかりスター性、力強さを持っていて良かった。
そしてグレン・パウエルは今年彼の出演作を立て続けに観てきたけど、『恋するプリテンダー』に引き続き、彼の持ち味が存分に活かされた2020年代型"有害な男性性を持ち合わせたタイラー役がほんとピッタリだった。
あんな美味しい役いる?!笑
いまもっともジャンル映画を描くのに万能な男になりつつあるのでは。
もう今年最推しです。笑

いや〜楽しかった。
流石は『ミナリ』で現代アメリカの移民家族のリアルを自然と描いたリー・アイザック・チョン監督。
移民国家で根を張って生きる家族を雑草≒韓国語でセリを意味するミナリに準えて描いたのが素敵だな、と思っていたが、本作も『ツイスター』の世界観を継承、という要素がなければタイトルは「フジワラ・エフェクト!!」で良かったのに笑
ジャン黒糖

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