登場人物はみんな目が死んだ魚と言うか、動かない爬虫類みたいだったのは演出?
《黒沢清構文》
「蛇の道」「CHIME」に続いて、私の勝手な見立てですが、ここでも黒沢清監督は“連鎖“による唐突な恐怖と崩壊をベースにしていると思われます。
これは不条理に見えて、実は人が人との接触の中で作り上げていくもので、つながりが太くなればなるほど負の連鎖として悪意と憎悪に満ちて行き、突然殺生に至り崩壊する流れで、私は“黒沢清構文“と呼んでいます。
何しろ黒沢作品は、順序立てて見ることを突如放棄させるぶっ飛びな恐怖観念をぶち込んできますから、ちょっと油断するとステージごと次の空間に移動させられますね。
いやな感じどころか、親切心のかけらもありません。
《檻の中》
ただ、黒沢監督は観る側がどう振り回されるかを承知の上で悪意を仕掛けてきますから、逃げ場のない檻の中に入れられていることを見失わないようにするのみです
何しろ毎度、普通だった人にいきなり原因不明?の狂気が宿るし、どっかそこらあたりの家や、倉庫みたいな普通の場所が舞台になるので、薄気味悪さがたまりませんね
【Cloud クラウド】
ドラマなどにも傍役で登場はするが、ここまでガチな転売ヤー(菅田将暉)が主人公というのは初めてという気がする。
転売ヤー連中は、鉄面皮の守銭奴がほとんどなので恨みも買うが、必ず高くても買う人がいるから、悪質転売の横行は歯止めが掛からない。
本作は、恨みつらみの連鎖から、生真面目に転売業をこなしていると思い込んでいた男に、いきなり銃口が向けられるストーリー。
《転売ヤー》=Re saller
何が何でも欲しいという買い手を相手に、相場の上限に独自の付加価値を付けて物を売りつける。そのプロセスにほとんど悪気がない…
あるいは不正取引に及んでいるのに、取引そのものに悪事という感覚はほとんどない…
もうひとつ、わかっちゃいるけどやめられない…
そんなしたたかで、あこぎな人種が多く、バッシングされたくらいでは尻込みなどせずに、しぶとく地下ビジネスに精を出すのが転売ヤー。
大義は“欲しい人のため“、目的は“金“のため。映画の中では、買占めによって市場出回り価格が釣り上がった瞬間にリリースする手口が出てくる。
《プロフェッショナル》
この作品が面白いのは、鼻つまみの転売ヤーと言えども、主人公は自己ルールとビジネススタイルを意識したプロフェッショナル気質を持ち合わせているところ。
《「カンバセーション…盗聴」との相似》
思わず、フランシス・コッポラ監督の「カンバセーション…盗聴」に出てくる主人公の盗聴屋ハリー(ジーン・ハックマン)を思い出したくらい、面白みのないビジネスライクな人物で、助手が去るところや、彼女の理不尽で曖昧な存在感、何者かに自分が狙われるところなどドラマ展開のベースも似ているところがある。
《アマチュア》
一転、警察やヤクザ、あるいは訓練されたプロフェッショナルが銃を撃ち合うのではなく、ほぼアマチュアが人を撃って殺す。
ここに生まれる呼吸は、素人の撃ち合いだけに、一気にテンポが狂う。
銃口を向けて威嚇した後の間がいかにも悪いし、引き金を引く際の思い切りも悪い、結果、観る側は必要以上に緊張を強いられる仕掛けになっている。
かなりの弾丸が飛び交うのだが、こっちが撃つ!と思ったタイミングでは、引き金を引かない。と言うより引けない。
《呼吸ずらし》
黒沢監督は敢えて観る者に心地よい呼吸をさせない。
これは、実は過去の作品にも幾度か登場している黒沢清構文のひとつ。
今回も好きなようにもて遊ばれたというか、いじめられたというか気分は重い。
ただこの感覚、何となく嫌いじゃないのが最大の問題…です
《黒沢監督へ》
佐野くんみたいな人物が、どの映画にもサラッと登場するのやめてもらえませんか 笑
私は一番怖いです 笑笑