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ルックバックのkmtnのネタバレレビュー・内容・結末

ルックバック(2024年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作がジャンプ+で公開された時、熱狂した身として、やはり観に行くかとすっかりU-NEXT依存が重症化している中、ひっさしぶりに映画館へ。
公開2日目ですが、ほぼほぼ満席。
20-30代ばかりかな?と思っていたが、少ないながらも年配者の姿もちらほら。


最近、原作改変がインターネットを賑わしがちであるけれど、本作は約1時間と短めの尺でほぼ原作通りで、原作に映っていない部分を埋めていくような形。
漫画では省かれているけれど、本来はそこにあって当然の物が差し込まれていて、それがさらに作品のリアリティを押し上げていると思う。
漫画は音が存在しないエンターテイメントだから、聴こえない音は読者が脳内で保管するけれど、映像作品はそうはいかない。作画のクオリティにそう言った細かい音響や映像が重なって、素晴らしかった。


ただ個人的には劇伴がうるさすぎて、そこはかなり煩わしかった。
1時間の中で「ここが感動ポイントですよ〜」というような仰々しい劇伴が繰り返されて、辟易してしまった。


ストーリーは原作と変わらず。
「ビッグ・フィッシュ」だったり「ライフ・オブ・パイ」などもそうなんだけれど、こういう物語を物語るような作品に、とにかく弱い。


社会を激震するような、災害や事件が起きたときに、アーティストたちは自分たちの無力さをSNSに書き込む。
藤野も京本の訃報を知った後に、そんなことを口にしていた。でも本当にエンターテイメントというものが社会に何の影響も与えない、意味のない物であるというならば、とっくの昔に滅んでいるはず。
でもそうなっていないのは、何の意味もないそれが人を動かす力を持っていることだと思う。


本作は京アニ放火殺人事件を発端に作られた作品である。
原作の漫画は、放火事件から2年と1日後に公開されて、当時SNSでの熱狂は凄まじかった。
それに伴い、やはりクローズアップされたのは、本作の後半に現れる犯人の言動で、一度修正され、単行本化の際に再修正された。


(参考)青葉→植松→青葉、二転三転した「ルックバック」の修正とその反応
https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2277


個人的には修正された時の判断は仕方がないとは思ったものの、コマとセリフが微妙にあっていない気がして、一番しっくり来るのはやはり一番最初のものだったとは思っていた。
今回、映画化にあたって、その該当箇所のセリフは最初のバージョンのセリフになっていたとのことだったが、統合失調症と思われる犯人の現実感のある挙動と合わせて突きつけられると胸が苦しかった。
勿論、一番に守られるべきは被害者ではあるが、少なくとも犯人だって、死ぬほど苦しかったのだなと。
※当然、青葉真司と本作の通り魔の人格を同一視するべきではない。


タイトルの元ネタはみんな大好き、オアシスの「Don't Look Back in Anger」。
「怒りをもって振り返るな(和訳は色々ありますが)」という歌詞が、象徴的かつ、本作のテーマめいた部分を表しているけれど、やはり「Don't Look Back in Anger」といえば、マンチェスターでのアリアナ・グランデライブ中のテロ事件後に、アンセムとして英国人の間で何度も歌われたことが強く記憶に残っている。
藤本タツキもそこに大きくインスパイアされたのではないかと思っている。


(参考)オアシスの“Don’t Look Back In Anger”、英テロ事件の追悼集会で大合唱が起こる
https://rockinon.com/news/detail/161228.amp


とても素晴らしいクオリティで、おそらく今後海外も含めて賞レースであらめて存在感を示していく作品であるとは思うが、原作を初めて読んだ日のあの頭をぶっ叩かれるようなショックはなかったというのが正直なところ。
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