イチロヲ

めまいのイチロヲのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
4.5
高所恐怖症に悩まされている元警察官の紳士が、不安定な精神状態に陥っている旧友夫人を横恋慕してしまう。ボワロー=ナルスジャック著「死者の中から」を映像化している、ラブ・サスペンス。

前半部は、奇行を起こす旧友夫人と接触する展開。終盤部は、夫人と瓜二つの女性に遭遇する展開。「気品がある金髪美女に畏敬の念を抱く」というヒッチのフェティシズムが極に達しており、自己中心的な男性目線の作劇が、独特な気持ち悪さを生じさせている。

だが翻って見ると、男の性(さが)というものを、皮肉と自虐、メタファーを取り入れながら、グロテスクに描いている作風と捉えることが可能。新しい恋人を元カノのコピー人間にしたがるあたり、気持ち悪いけれど、その行為自体が滑稽であり、真理でもある。

愛欲から湧き上がる焦燥と葛藤が、人並み外れた恋狂い(=狂人的な行為)へと駆り立てていく恐怖。そして、普段表出することのない、潜在意識をかき回される悪夢的感覚。そこに本作の魅力が詰まっている。
イチロヲ

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