“東京インディー”を代表するバンド・ミツメの2015年作EPのタイトル「めまい」。このタイトルはヒッチコック映画『めまい』と何となく関係があると勝手に思っていた。以前のミツメの全てのレコードのタイトルに、“目”に関するワードが採用されているのを知っているにもかかわらず。だから、この『めまい』を一度観てみたいと思うようになった。
「高所恐怖症」とか「メロドラマ」がサスペンスを駆動させるための仕掛けにすぎない。これは、ノーランが『インセプション』で「夢の夢の夢」を、「心理主義的な命題」(または単なる自意識)としてしか扱えないのと対照的。
鐘台のシーンで、俯瞰視点で捉えた僅かな人間の動き。ラストの暗闇から現れるシスターが、完全に黒い影で幽霊のよう。
ヒッチコックの非・文学的な映画作りというか、この『めまい』は観客に「共感」などさせない。主人公は狂気に染まっていくし、この映画の美しさの背景にはミソジニーがある。
サスペンスという装置の中で、観客の思考を転がすだけ。それでも最高に面白い。