しょうや

悪は存在しないのしょうやのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

死んだ曽祖母の体に触れたことがある。やけにかたいが生々しい肉の質感、大きな空洞となった鼻の穴。厳かさと腐敗が同居したようなにおい。それらはいわば野生動物から感じられるものであり、例えば森に棲む鹿のツノや毛皮のようなものだったと思う。

フレーム内では断続的に、死のにおいが漂っている。バックシートに設置されたカメラは、車の前方を撮ることができない。たとえこの先に事故が起こっても、その瞬間を目撃することができない。フレーム外からは猟銃の音が聞こえてくる。今日も少しだけ離れたどこかで何かが死んだ。雪に滴った血や、地面で消したタバコの灰はやがて消える。それでも時間は痕跡を確実に残しながら一方向に進んでいく。経験は彼を永久に変えただろうし、言われた言葉は消えないし、なくした誰かは戻らない。
しょうや

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