現実離れしたサイコスリラーに寄りすぎず、いやむしろスリラーというより、人の気持ちの機微や揺れ動く様を描いた、リアリティに満ちた上質なヒューマンドラマに感じた。
真面目に人思いに生きてきた女性が、度重なる理不尽な出来事や世間の不条理に耐えながらも、懸命に生きようとする様子が江口さんのお芝居から痛いほどに感じ取れ、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
もちろん、サスペンス要素もあり、随所に散らばった伏線や謎が徐々に回収されていくのもスッキリできてよかったし、それに伴って彼女の苦しみがよりいっそう感じる結果になったのはなんとも気の毒だった。サスペンス要素がありながらも、何度も繰り返すようだけれど、主軸がヒューマンドラマでぶれなかったのが本当によかった。わずかながらも希望が感じられるラストも好き。
吉田修一さんの小説は、なんだか報われず救いがない物語が多い気がするけれど、本作の終わり方は好きだった。