せち

愛に乱暴のせちのネタバレレビュー・内容・結末

愛に乱暴(2024年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

邦画。
心が苦しい方のヒューマン系。
平凡な専業主婦の日常が徐々に壊れていく話。

といっても、たぶん桃子さんにとっての「平凡な日常」は随分前に壊れてたんだと思う。
それでもなんとか日常を継続したいから、うっすらと嫌味な義母と仲良くするし、不倫する旦那に丁寧なご飯を出す。自分の生活の質を向上させるために石鹸教室を発展させるための提案もするしお気に入りのティーカップを買い揃える。すごく丁寧に生きてる人だけど、それはある種「これだけ頑張ってるから何も壊れないで」という祈りに近い気がしてしまった。

それでこれ、登場人物の味がいいよね…。
最初は不倫する旦那最悪じゃん!って思ったけど、桃子さんも不倫の上で略奪して今の旦那と結婚したわけで…一つの案件で見れば無罪だけど、トータルで見ると因果応報と言えなくもないか…?みたいな。

あとはね、不倫相手の家から大きい音がした時の対応が好きだった。
一回「倒れたんじゃない?」って気づいて無視しようとするんだけど、無視できないんだよね、この人。悪者になりきれない。その上で不倫相手が別に倒れてるわけでもないという、何もうまくいかない人。

もうこの先どう生きればいいんだよ!?ってくらい生活が壊れていく先で、それでもたどり着く「いつもありがとう」の言葉にはちょっと泣きそうになった。
たぶんこの人がゴミ捨て場を掃除してたのは、単純な善意が理由ではないと思うんだよね。それこそ「私は正しい人間です」という脅迫的な行動の一部だった気がして、つまり正しさとしては偽物だったのかもしれないけど、その偽物の営みが、それを見ていた無関係の誰かが、もう限界だった桃子さんの心を救ってくれたのは小さな救いだった。

大丈夫だよ、積み重ねた正しさはそれが演技であって偽りだったとしても、いずれあなた自身を救ってくれるから、みたいな気持ち。

原作があるみたいだからちょっと読んでみたい。
せち

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