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化け猫あんずちゃんのcyphのレビュー・感想・評価

化け猫あんずちゃん(2024年製作の映画)
4.7
奇跡みたいな作品だ 公開前から観たかったけど体調的に行けなくて心残りだったので見逃し上映に感謝 にしてもこんなにいいとは!ロトスコープ、どちらかというと苦手寄りですらあったけど山下監督×いまおかさんの滋味がぎゅっと出ててかつアニメーションによるデフォルメの気持ちよさもずーっと続いてはちゃめちゃ意味あった これはもう母語話者の特権だと思うけどあんずちゃんが森山未來の声で怠そうに喋ってるだけで多幸感に包まれるもの このオフビート、阿吽の呼吸でなんとなく伝わるっしょ?の良さをアニメ映画が完璧に獲得したなんてもう金字塔じゃん いい身体といい声の完璧な連動ってこんなにうれしく気持ちいい カメラの置き方も当たり前のようにしっかり決まっててアニメなのに!?て思う しかもそこに加わる猫の本能的しぐさたち、静かに殺しにかかってる 最高

原作についても公開当時最初の数話試し読みしたきりだったけどオリジナル版と風雲編と改めて通しで読んでほんとに意味わからなくて最高 これをアニメ映画にしましょうって言ってあれだけ原作愛と夏休み映画の体裁とを両立させた脚本に仕上げるの大人たちによる魅惑のお仕事ってかんじでうれしくなっちゃうな 柱を持たない原作のよさを手繰り寄せながらかりんちゃんというキャラクターが池照町という場所の特殊さおかしさをバランスよく反射させてかつ少女の実存を揺るがすレベルの居心地の悪さってエモーショナルなテーマに落とし込んでいく手腕、最高

かりんちゃんは『お引越し』かつ『海がきこえる』だなって思って観てたら少なくとも前者を参照して作り上げたキャラクターだとパンフで書かれてて せやんなとなった かりんちゃんがずーーっとかんじ悪いの観客を甘やかさなくてスーパー格好いい 攻撃的で不寛容で無礼で猫かぶりで口が悪くてずっとイライラしてる女の子 かりんちゃんに舌打ちさせない方が、軽々しく「死ね」と言わせない方がたぶんずっと観客に親切(不遇な少女として同情しやすい)けどそれを最後まで言わせ続けるのが人間存在の度量の大きさを力強く信じててそれが本当にクール

最近職場のおじさんと足並み揃えて寅さんを週一で見返してるけど男はつらいよも令和に観ると信じられないくらいいったん観客をやな気持ちにさせる でもそれが国民的映画足りえた時代があったというのはやっぱり希望なんだよな 人間の醜い感情のうねりから目を背けて気持ちよーくスルスル勧善懲悪因果応報をやったってそんなのフラスコの脳みそに電気信号与えてるのと一緒 何もかもが大丈夫じゃない時代って少なくともわたしたちには確実にあったし、それが何かを経て(この場合は地獄での云々があって)ちゃんと大丈夫になるってそれだけで物語として完璧に希望だ ラストの笑顔で駆けるかりんちゃんの「あんずちゃん!」 その瞳に差し込む光、寺の門の下の背景の美しさ、いま思い出しても泣ける

これだけ不思議ドメスティックな作品なのにフランスのスタジオとの共同制作で海外にもどんどん売り出して行ってって風通しのよさも奇跡的に思える ピエール・ボナールを意識した美術、たしかに日本の夏とは違った湿度の絵づくりになっててそれも妙な奥行きを生んでてよかった 冒頭にお寺の庭でカメラが90度回るところなんて贅沢すぎてくらっとしてしまったけど海外資本が入ってると聞くと途端になんだか納得できる こののびやかさ、贅沢さ、本当に奇跡みたいな一本

たまたま同時期に観たので比べちゃうけどロボットドリームズ、あれもとてもよかったけど、こっちの方が断然好きな作品だった ロボットドリームズの徹底的に捨象された世界観の方が最大公約数として受け取れられやすく、実際そうなってると思うけど、わたしはやっぱり人間の固有の輪郭 そのアンバランスさ 醜さ 割り切れなさ おかしさ そういったものに真摯に向き合って差し出される物語が好きだな〜〜てなった 声の豊かさを再発見する作品でもあったし 地獄のくだりが必要かどうかみたいな議論も別にどうでもよくて、結果的にかりんちゃんが大丈夫になったんだからもうそれだけが宝石 あと鬼たちの職場感さすがの山下×いまおか節ってかんじでよかったです そんなんでええんですわ
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