ミシンそば

蛇の道のミシンそばのレビュー・感想・評価

蛇の道(2024年製作の映画)
3.5
黒沢清監督がフランスで製作したキャリア初期のVシネ的復讐映画のセルフリメイク。
これは正直、リメイク前のオリジナルを観ずに行った方がよかったかも…最終的に自分が抱いた感想はこうだった。

筋書きは、フランスが舞台だから色々変わってはいるが、主人公と娘を殺された父親がすることはほとんど同じ。
拉致る相手がヤクザから裏で犯罪やってる(すでに解体された)財団になったってだけで、拉致った相手が喚き散らす言葉もほとんど一緒、フランス最強クラスの名優アマルリックは大槻に相当するラヴァルで、「ビフォア・ザ・レイン」の修行僧だったコランは檜山に相当するゲラン。宮下に相当するバシュレを演じるボナールも2010年代後半から売れ出した役者と、結構贅沢なキャスティング。
だが彼らを向こうに回してもなお、新島小夜子(当然、新島直巳に相当する)を演じる柴咲コウの存在感と静かに燃える憎悪の演技は、全く翳ることのないものだった。

惜しむらくは、最初にも言ったように筋書きがほぼ同じで小夜子が秘めている黒い情念をすでに知っている状態で観ないといけないこと(レイプ殺人から臓器目当ての殺人と、細かいところは変わっているが)。
それから、幕間的に挿入される西島秀俊演じる吉村の描写が、自分にはオリジナル版の数学教室に相当しているとは到底思えず、役者の無駄遣い、日本向けのリップサービスに思えて仕方なかった。
コメットさんみたいなあからさまな遊び要素がなかったり、有賀に相当するキャラが無駄にめっちゃくちゃ強かったり、真相に辿り着いてから恐ろしく間延びしてしまったりと、話が分かるからこそ感じる嫌な方向への違和感も多い。
あまり匂わせ等をさせず、出来るだけ「話がどう進みどう帰結するか分からせるように」作っている作品だなとも思ったから余計に(特にラストは)。

だがラストだけは、「リメイク前を観ていた方が」より濃い絶望を肌で感じることが出来る要素だと思う。
それくらいに、あの目は全ての希望を拒み閉ざしていたし、この映画で最も輝いていたのは小夜子役の柴咲コウだった。