ヨーク

蛇の道のヨークのレビュー・感想・評価

蛇の道(2024年製作の映画)
3.7
本作の感想文を探しに来ているような人にとってはご存知のことだろうとは思うが、この『蛇の道』は黒沢清本人の手によるセルフリメイク作品でオリジナル版は1998年に哀川翔と香川照之の主演によって公開された作品である。黒沢清の出世作である『CURE』の直後ということで多分当時の映画好きには注目されていたと思うのだが、当時は田舎の実家住まいだった俺は数年後にレンタルで見た覚えがある。
正直、本作(24年版)のことを初めて知ったときには何で今さらこの作品のセルフリメイクを? と思ったくらいで、オリジナル版に対してそんなにめっちゃ面白かったという記憶はない。実際98年版と24年版を比べたら映画として出来が良いのは…まぁ24年版だなと言うしかないだろう。でもなー! なんていうかなー! 面白かったのは間違いないんだがオリジナル版のような不気味さとか居心地の悪さとか、見終えた後にうんざりするような感じはなかったんだよなー。本作をジャンル分けするならば98年版も24年版もサスペンス要素もあるサイコホラーとでも言うような感じだと思うが、そこにある怖さというのもオリジナル版である98年バージョンの方がより怖かったように思う。
ストーリー自体は細部の変更はあれど大体は同じで、自分の子供をかなり凄惨な拷問の上で殺された父親が協力者と共にその事件に関与した者を監禁して拷問し、事件の首謀者へと迫っていくというものである。まぁざっくりと言えば復讐モノだろうか。
うん、実際その本筋自体は些かの変化もないのでお話自体はとても分かりやすいものではあるのだが、でもやっぱ上記したように印象は新旧作品でかなり違う作品でしたね。いやね、98年当時の黒沢清は『CURE』で一発当てたと言ってもぽっと出の若手監督だったし、技術的にも予算的にもまだまだしょぼいものしか作れていなかったと思うのだが、しかしその作家としての原液的なものが非常に濃厚に垂れ流しになっていてそれが得も言われぬ不気味さや怖さに繋がっていたと思うんですよね。ちょうど先日に現時点での黒沢清最新作である『Chime』の感想文でも買いたが『Chime』は正に90年代から00年代半ばくらいまでの黒沢清作品って感じで、正常と異常の間に境界線もなく地続きになっている感じが何の説明もなく描かれ続けて薄ら寒い不安感に襲われるのが最高に怖くて良かったし、この人低予算な作品の方が面白い映画撮るんじゃないだろうか、と書いたことそのまんまな繰り返しの感想になるのだが、やっぱ黒沢清の魅力としては98年版の方が濃厚で面白かったと思うんですよね。
黒沢清は年々評価が上がっているらしくフランスで何か文化勲章的なものを授与されたとかいうニュースが先日あって、本作の舞台がフランスであるというのもその辺の絡みがあるのだろうが24年版はそのように一定以上の評価を得て巨匠的ポジションに近づいた黒沢清が予算の制約などはあまり受けずに(98年版と比べたら)比較的自由に撮りたいものを撮れたと思うのだが、それが余りにもちゃんとした映画っぽくて98年版にあった魅力を殺しているような気もしたんですよね。いやそこは何というか我ながら面倒くさいオタクの戯言な部分もあると思うし、かなり理不尽なことを言っていると思うのだが、本作は映画っぽいからダメなんですよ。映画っぽいというのはつなり作り話感がありありだということです。つまりエンタメ娯楽(監禁と拷問が尺の大半を占める映画に娯楽とか言うのもアレだが!!)的なウェルメイドな作りの印象になっているんですよ。それがちょっと残念だったな~、と個人的には思う。まぁそこはあくまでも個人的にで、多分100人に98年版と24年版の『蛇の道』を観せたらおそらく80人くらいは24年版の方が良かったと言うだろう。そういう意味ではやっぱ映画としての完成度は断然24年版の方が高いと思うんですよ。
でもなー、上で『Chime』の感想から引用したように現実と非現実とか正常と異常とかの境界が曖昧になってしまう怖さが黒沢清作品の好きなところなんだが、繰り返すように本作は映画という作り物としての出来が良すぎるせいでそこの部分が入り混じるような不安感とかがないんですよね。フランスが舞台っていうのも関係があるのかもしれない。生粋のジャパニーズである俺にとってはやっぱフランスの街並みとかが出てきただけで、あーなんか映画っぽいなー、とか思っちゃうからね。その辺はフランスの客が観たらまた印象が変わるのかもしれないが。
でもそこら辺の住宅地とかさ、ガキの頃に忍び込んで遊んでたような倉庫とかさ、あと『Chime』でも描かれてたような線路沿いの細い通路とかそういう身に覚えのある風景の中で異常な出来事が起こる方がやっぱ怖いなーって思っちゃうんですよね。本作はそういう意味での映画的作り物感があったので何か安心して観れちゃたのが黒沢清ホラーとしてはイマイチだった。オリジナル版はその辺の境界も曖昧でそこが良かったのかな。日常の風景の中で一歩先に異常な世界があるかもしれないという感じが98年版にはあったんですよ。
まぁしかしすでに述べているように映画としての出来は凄く良かったので、この24年版も面白かったのは間違いない。趣味嗜好をよく知っているような友人ならともかく、不特定多数の他人にオススメするならば完全に24年版だろう。98年版とは結構違ったオチも含めてちゃんと綺麗に終わってるお話になっているからね。
なのでまぁ面白かったですよ。そもそも子供が惨殺されるところから始まる映画だから他人にオススメしにくいってのはあるけどな!! でもこの『蛇の道』は新旧どちらも観てどっちが良かったか聞いてみたい作品ではありますね。そういう作品なので未見の人はどっちも観ましょう。どっちも面白いよ。
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