このレビューはネタバレを含みます
世界は綺麗で険しくて、調和は難しくて素晴らしい。
自然が綺麗で厳しい。
流れ着いた島で起動したロボットのロズが、視界に入る動物たちを自分の購入者と勘違いして、話しかけまくっては怖がられる。らっこのお父さんが子供を自分の後ろに隠して睨みつけるのが、コミカルでもあるし正しい反応。他の動物たちもロズを拒絶していく様子が、とんちんかんなロボットのドタバタ喜劇でもあるけど、外部のものへの必要な防衛本能と、排他的で寂しい断絶も感じる。ロズがたくさんのちょうちょが止まっている木に興味を示し、木に触れるとちょうちょがいっせいに羽ばたく。この画がとても綺麗だった。しかし、綺麗で終わらずに、鳥がやってきて1匹の蝶が食べられてしまう様子をアップで見せられる。それがグロテスクなわけでもなく、淡々と。自然界とはそういうところ。
ピンクシッポが「うちは子供が7匹もいて」としゃべっている途中で、子どもの悲鳴と他の動物の凶暴な声が聞こえる。その瞬間、ピンクシッポは「6匹になったけど」と言う。ブラックジョークだけど、ブラックでも何でもない現実。そのシーンは結局襲われていた子どもが「生きてるよ」と出て来て助かっていたけど、あとでピンクシッポが登場したときには本当に子どもが6匹になっている。
動物界だけでなく、人間もこの世に生きている限り、命そのものではなくても世界の厳しさにさらされながら生きている。そして、その世界は美しい景色でもある。
子育てをするロボット。
ロズは鳥の巣の上に落下して、親鳥や卵をつぶしてしまう。その中で一つだけ無傷だった卵を大切にし、キラリが生まれる。卵からかえった瞬間、それを見たロズがカラフルな光を放つ。このあともロズはしばらく、ロボットらしく仕事を探し続けるけど、でもやっぱりこの瞬間に変わり始めていた。自然の景色を綺麗に描くのと同じように、ロズの感動を綺麗に描いている。心の中の感動は形ある現実に匹敵する。他者と寄り添いたい、優しくしたいという生物の本能。
ロズは起動させた別のロボットに子育ての大変さを語る。終わりのない仕事で、行き当たりばったりの対応力を求められる。ロズの困惑と苦労も分かるし、愚痴るようになったロズの人間味がかわいくもあった。
この映画で一番好きなシーンは、成長したキラリが他の雁と合流して飛んでいく、親離れの瞬間。一人前になったら別れが来てしまう。でも、別れこそが成長の証。寂しいけど親離れできるほど育った事実に感動もした。
生き物としてのプログラムを取っ払った先に共生がある。
島が凍りつき、チャッカリ以外の動物がみなピンチに。ゴールデンゲートブリッジが海に沈んでいる描写があり、どうやら地球の地形や気候に変化があった未来が舞台だったらしい。ということは、普通の冬が来たのではなく、島の動物が絶滅するレベルの特殊な寒さが来てしまったようだ。ロズとチャッカリが動物たちを助けて家に集めるが、捕食関係にある動物たちもいて場は荒れる。そこを、ロズとチャッカリの説得もあり、皆がこの冬を越すまでは仲間でいることを約束する。冒頭で動物たちがロズを受け入れなかった場面もそうだが、動物同士のいがみ合いも、自分を守るために他者と手を取り合わない人間のようだった。それは心が狭いとか性格が悪いのではなく、「自分たち」を守るためには出てくる発想。ロズが「プログラムを忘れて共生しよう」と言うように、プログラムとして動物に刻まれている。それを取っ払って、壊していかないと、他者と傷つけあう世界になってしまう。
一番凶暴な熊が、ここにいる間は誰も捕って食べないと宣言し、他の動物たちが熊に寄り添う。難しいけど、互いを信頼して平和を成立させる姿は優しくて立派だった。
終盤は、ロズを回収に来た本社の手先との戦いになり、最後はロズが島の皆と仲間でいるために島を離れて本社に身を捧げる。本社で働いている人間も悪い人ではなさそう。それにホッとしたけど、一方で、いい人だけど動物たちにとっては敵陣営だったということ。
ロズは記憶を消されるが、キラリが会いに行くと「ロズと呼んでください」と、最初にはなかった柔らかさが残っている。それを見て嬉しそうな顔をするキラリ。親が年老いて弱っていく、子どものことを忘れる場合もあるのは、人間も同じ。寂しい中にある温かさに目を向けてそっちを大切にしようと思えるキラリの成長ぶりが逞しかった。優しいことは逞しい。