櫻イミト

青の光の櫻イミトのレビュー・感想・評価

青の光(1931年製作の映画)
4.5
「意志の勝利」(1934)で知られるレニ・リーフェンシュタールの初監督&主演作。山岳幻想映画。脚本は「カリガリ博士」(1919)「サンライズ」(1927)のカール・マイヤー※クレジットには無記名。撮影は「第三の男」(1949)のラストカットを撮影したハンス・シュネーバーガー。

巨大な滝のあるイタリアの田舎。村外れにひとりで暮らしている少女ユンタ(リーフェンシュタール)は魔女と噂され村八分になっていた。この村では村の若者がひとりまたひとりと、満月の夜に青い光を放つ地元の山の中腹に登ろうとして転落死していた。ある日、ドイツからやって来た画家の男がユンタを見初め仲良くなるが。。。

先日観た「制服の処女」(1931)と同年に作られたナチス支配直前のドイツ映画。

予想だにしない映像の素晴らしさに驚いた。ドイツ表現主義映画の美学を大自然下で繰り広げている。序盤から登場する、巨大な滝の下に極小で映るヒロインの構図。その圧倒的なスケール表現は後半の登山シーンでも用いられ、全編に渡って聖(自然)と俗(人間)の格差を見事に映像化している。その手法は「意志の勝利」でのヒトラーと大群衆との配置と同様で、本作を観たヒトラーがリーフェンシュタールに監督を依頼したのも充分頷ける。

山岳の神性をこれほどまでに芸術表現した映画は本作以前には思い当たらない。以後作品でも思いつくのはアブラゼ監督の「祈り」(1967)ぐらいか。ロッセリーニ監督の「ストロンボリ/神の土地」(1950)よりも映像的には勝ると思う。

物語は、“聖”なるものが“俗”の接触により崩壊する寓話で映画における基本的なプロット。しかし自然の神性表現の傑出が本作に特別なものを与えている。台詞は少なく、ヒロインを村八分にする面々の切り返し編集など視線で信仰していくのも映画的で好みだった。

リーフェンシュタール監督の審美センスをナチスプロパガンダ無しで楽しめる、戦前ドイツ映画の隠れた名品。

※リーフェンシュタールは山岳映画の巨匠アーノルド・ファンク監督「聖山」(1926)で劇映画主演デビュー。以後も同監督の山岳映画に2本主演し映画を学んだ。戦前のドイツで山岳映画が流行っていたことは知らなかったので是非観ようと思う。
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