櫻イミト

雪崩の櫻イミトのレビュー・感想・評価

雪崩(1970年製作の映画)
3.5
ロージー監督のカンヌ映画祭パルムドール受賞作「恋」(1970)と同年の作品。アート系の逃亡映画。原題「FIGURES IN A LANDSCAPE(風景の中の人物)」。日本劇場未公開。※「雪崩」はNHK放送時のタイトル。

【あらすじ】
中年と若者の男(ロバート・ショウ&マルコム・マクダウェル)が両手を後ろ手に縛られたまま海岸から森の中へと逃走している。追ってくるヘリコプターから身を隠しながら彷徨い、やがて人家でナイフと銃を手に入れる。しかしヘリコプターの執拗な追跡は止まず、逃走は果てしなく続く。。。

某映画評論家がマイベストに挙げていて観てみたかった一本。キューブリック監督は本作をのマルコム・マクダウェルを観て「時計仕掛けのオレンジ」(1971)の主役に決めたのだそう。

冒頭から、逃走する二人とヘリコプターの主観空撮が切り返され、ダイナミックな映像に引き込まれる。しかし、二人が何者で誰から追われているのかは明かされないまま映画は進む。二人の間で交わされる会話は殆どが逃走のための話し合いで、他には中年男のとりとめない家族の話が語れるのみ。

要するに本作は、“ダイナミックな逃走劇スタイルのアート映画”という実験的な一本と言える。つまり、その解釈は観客それぞれに委ねられている。ヘリコプターからの映像は、荒野、川、山を逃げるちっぽけな二人=「風景の中の人物」を追い続ける。まさに実存主義的な表現だが、その一方で、農業地帯での焼き討ちとヘリコプターの図は明らかに当時のベトナム戦争を模していて、同時代性も提示されている。

個人的には実存主義的アート映画は好みなので様々なことを考えながら楽しんで観ることができた。低空飛行のヘリコプターと二人の絡みは、プロペラが体にあたって惨事にならないかと冷や冷やした。

ただ表面的には逃走アクション映画に見えるので、娯楽を期待する向きが観てしまうと“意味不明”と嫌うことだろう。

「すべての映画は逃走を描いている」と村上龍が書いていて妙に納得した記憶がある。本作は物語を排して「映画的なる表現」を極める試みだったのかもしれない。
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