柊

『越後奥三面―山に生かされた日々』デジタルリマスター版の柊のレビュー・感想・評価

4.0
姫田さん、彼の事務所はかつて私の住んでいる下車駅にありました。そんな事もあり、その事務所で定期的に開かれていた研究会と言うのかな?とにかく姫田さん達の撮った映像を見る会に何度か参加した事があります。姫田さん晩年の頃になるのかな。アイヌやトカラ列島などが馴染み深いけれど、今作品も渾身の作品だ。

姫田さんが亡くなってから,その事務所のあったマンショも無くなり、その後の事とか全くわからなくなっていたのに,ここにきてのポレポレでの上映。何が起こった?と思うと共に姫田さんの映像を映画館で観る日がまさかくるとはと言う感動で満たされた。

作品は三面と言う今はダムに沈んだ村の営み。撮影が1980年からの4年間。え?ほんと。
その年って私が大学一年からの4年間と重なる。世の中バブルで浮かれていた時代の幕開けくらいではないのか?
そんな背景ながら村の暮らしは、土に根差し,山と川の恵みを享受し、ほぼ自給自足で暮らす人達の生活を余す事なく捉えていた。
家族みんなが暮らしの役割を分担して、犬や猫さえも生活の役割を分担しているようだった。基本は家族単位…でも家族で補えない部分は村単位。良い意味で日本の昔の暮らしそのまま。短所はあえてなのかはわからないけれど全く捉えられていない。

水害が契機となり,ダム建設が持ち上がったらしいが、氾濫する川は別の川らしいし,水力発電のためでもないらしい。それ以外でのダム建設となれば,単なる大型土木工事による大企業の利権か?そこは詰めてないけれどあの時代だ。多分そうだろう。そうして名もなき人々の暮らしを根底から根こそぎ奪い取る。そうやって消えていった村がこの国土の中にどれ程あったのかと考えるとなんとも哀しい。

まだ養育者のいる父親が何度も何度も今後の生活への不安を口にしてた。都会に出ると言っていたが,その都会と言ってもせいぜい新潟県内のどこか。それでも仕事のメドを含めて不安に押しつぶされそうな告白がなんともだ。

日本はこうやって、意味もない公共事業により大切な民俗文化を根絶やしにしてきたのだろう。消えたものを蘇らせる事はとても難しい。こうして映像に残してもいったい何の役に立つのか?と村の人が言っていたのも真実。でも記録していたからこそ今私達がかつての三面の存在を知る事ができた。

でも映像で綴られた暮らしを取り戻す事は決してできない。

ナレーションがきっちり撮影に参加して4年間かけて三面の人々の暮らしに寄り添ったからだろう。朴訥としてていいナレーションだったと思う。

撮影のためにあえて今は着る事もない,昔の狩猟装束に身を包み雪山を登っていく3人の男達がたまらなくかっこよかった。
それに生活のために使う鎌や鉈やその他様々な刃物がすごくよかったなぁ。
柊