日下勉

八犬伝の日下勉のレビュー・感想・評価

八犬伝(2024年製作の映画)
4.3
山田風太郎が好きで、曲亭馬琴も好きなわたしとしては、予告編や映画のプロモーションで果たして映画の出来が気がかりだったが、結果としてはとても満足。
山田風太郎の「八犬伝」はとても好きな作品で、現実の人生ではその狷介な性格や過度に完璧主義だったことから不幸な家庭だった実の世界と、それを乗り越える、あるいは逃避するかのような八犬伝の虚の世界、それを交互に描いて、物語の創作論にもなっている傑作。映画もその原作を損なうことなく過不足なくえがいている。惜しむらくは曲亭馬琴はもっと偏屈な爺としての説得力が足りなかったかなと。
やはりこの物語の白眉は東海道四谷怪談の舞台裏の奈落で曲亭馬琴と鶴屋南北の交わす虚実の創作論、ここが映画でしっかり描かれていてとても良かった。
他のレビューで虚のパート、八犬伝が薄味だというのが見受けられるが、原作がそもそも八犬伝はダイジェストみたいな感じでもあったし、これで良し。VFXは少々むむ?というところはあったが、栗山千明の玉梓と真飛聖の船虫には満足。とても楽しめた。
ただラストが、演出としては解るが、まるでフランダースの犬みたいなのにはちょっと微笑ましかったかな。

曲亭馬琴の作品は南総里見八犬伝と兎園小説という随筆を好んで読んでいるが、随筆を読むと曲亭馬琴が考証の細部に拘り、つまらない蘊蓄を披れきする癖があるのがよく解る。この随筆は彼の息子の宗伯も書いているのだが、恐らく馬琴が代筆している。そんな彼の過保護、過干渉ぶりが息子をダメにしたと言われているし、妻の百との間も円満ではないところが画かれ、ちゃんとしたホームドラマになっていたところも良かった。

映画は滝沢馬琴って言ってるが、やはり戯作者、曲亭馬琴!
日下勉

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