エイデン

がんばっていきまっしょいのエイデンのレビュー・感想・評価

がんばっていきまっしょい(2024年製作の映画)
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愛媛県、松山市
美しい海を舞台に“三津東高校”伝統のクラス対抗ボートレースマッチが行われていた
皆がゴールに向けて奮闘する中、2年生の悦子(悦ネエ)は、ただ1人もう勝てないことを悟り手を抜く
悦ネエは小学生時代、足が速いことが自慢だったものの、年を経るにつれて周囲との差が生まれるようになり、その挫折感から才能も無いのに頑張っても仕方が無いと勝負事を諦めるようになっていた
ボートレースの様子を見ていた幼馴染の姫(ヒメ)にも諦めていたことを指摘されながら、悦ネエは悪びれることもなく帰路に着く
その翌日、悦ネエとヒメがいるクラスに埼玉から梨衣奈(リー)が転校してくる
リーは隣の席になった悦ネエと姫に、三津東高校のボートレースの存在を知ってからボート部に入りたいと考えていたことを明かす
しかし現在、ボート部はボートに情熱を注ぐ二宮という男子部員しか所属しておらず、部員不足で廃部の危機にあると判明
部員が5人にならなければ廃部が決まるため、リーに泣きつかれた悦ネエと姫は、名前を貸すだけの約束で入部することに
すると、あと1人 部員を探すと息巻くリーの元へ、妙子(ダッコ)と真優美(イモッチ)が現れ入部を決める
2人は幼馴染ながら家同士がライバルで常に競り合い続けている関係であり、今回もボートレースマッチを受けて互いに勝つために入部を決意したのだった
奇しくもボートレース競技に必要な女子5人が揃い、その青春をボートに捧げることとなるが、やがて悦ネエの心境にも変化が表れていく



敷村良子原作の小説を映像化した青春映画
実写映画、ドラマに続き3度目の映像化で、3DCGアニメーション作品として新生してる

映像化の実績が物語っているように長年親しまれた作品ではあるんだけど、原作小説も30年近く前とあって、現代風にブラッシュアップされたストーリーが魅力かな
舞台が現代であるほか、特に目を引くのが主人公 悦ネエのキャラクターの改変
真っ直ぐで情熱的だった過去シリーズの性格から一転して、今時っぽいダウナーなキャラクターになっている
それに合わせてストーリーも若干変更が加えられていたり、スポ根色が減って青春映画らしい作風になってるのが特徴的

そこから来る悦ネエの心理描写も、挫折の経験から努力に意味を見出せないといいうものに置き換わってる
努力自体が美徳と捉えられていた時代と違って、結果に繋がらなければ無意味という価値観も散見される、現代っぽいキャラクターになってて、これがなかなか解像度が高くて個人的には気に入ってる
結果に繋がらないかもしれないので最初から諦める、面倒なのは御免なので交友関係も広げない、負けと決定づけられたくないので勝負もしない、何ていうダウナーな省エネ思考は、今や能力主義な社会への一種のアンチテーゼのように蔓延ってるし、それを友情・努力・勝利が王道であるスポ根ジャンル原作作品の主人公に据えるのは、それだけでもエッジが効いてて面白い
それが巻き込まれる形ではあるもののボート競技の世界に飛び込むことになって、変化していくというストーリーも悪くない

割と本作の評価として、それらの変化が明言されないためテーマがぼやけてるような意見を見かけるけど、個人的にはそこが1番気に入ってるところ
ダウナーなキャラがいきなり「努力って素晴らしい⭐︎」なんて言い始めるわけも無いわけで
わずかな感情の変化に自分自身も戸惑うし、明言も小っ恥ずかしくて避けるけど、「何となく努力した後は気分が良い気がする」っていうような、ぼやけてるし言葉にもしきれないような、わずかな変化を上手く取り入れて表現してる辺りがとても刺さった

そういう意味では上手く繊細な現代アップデートをされた名作っていう評価なんだけど、例えばスポ根作品として観てしまうと、作中でもルールも詳しく説明されない中途半端なボートレースに、気難しい思春期の女の子が周りに迷惑かけながら挑んで良い感じの雰囲気になるみたいなチグハグした作品に捉えられかねないかもしれない
そんな作品としての芯の弱さもあるような、決して大味では無い作品だけど、美しい映像と繊細なストーリーはじんわり効いてくるので観ましょう
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