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もしも昨日が選べたらのLCのレビュー・感想・評価

もしも昨日が選べたら(2006年製作の映画)
3.6
面白かった。

チラッと「 The best things in life are free 」が流れて嬉しくなった。とても好きな曲。字幕では「人生で最高のものはみんなタダ」って訳されていたっけ。
「 free 」は確かに費用がかからないことを表せるんだけれど、他にも「何かしらの制度等に縛られていない(自由)な状態」や「喜び」「愛される存在」という意味を含みながら使われてきて、今も生き残っている言葉。
作中、主人公は何だか物凄いリモコンを手に入れて、時間や相手を操作している。まるで世界そのものを主人公の管理下に置いたような景色だ。ただ、巻き戻しはできなかったみたいだけれど。
そして彼は、望むものを手に入れたり、何かを失ったりしていく。
でも、夜空に見える月は、疑う余地なく主人公の管理下の存在ではないし、誰の頭上にも等しく輝いて、人は時に楽しい気持ちを獲得したりする。お月見とかウルフムーンとか、月を楽しんでいる人は少なくないよね。
そして、この曲が流れる場面で、主人公に愛されている存在がひとりひとり、笑顔を見せてくれる。

「 Beyond (理解を超える、遥か遠くから、といったイメージの言葉。字幕では"その他")」と書かれたドアを開けた先で出会った者から「君は善人らしいね」と言われる場面があるけれど、個人的にはこれがなかなか面白かった。
例えば作中でも、「広いんだね」と言うところで「狭いんだね」と言っていたりするけれど、そんな風に正反対の言葉で表現することって英語圏でももちろんあるわけで、だからこそ「善人なんだね」という言葉が、作品のあちこちで思い出される。
でもたぶん、彼の言葉には最初から最後まで裏表ないんだろうという印象。
恐らく誰が訪ねてきても、市場には出回っていないアイテムを渡すんではないかと思う。そして、渡された人がどんな道を辿り、何を考え、何を願うのかを観察するのかな。そういう先のことを見据えた「善人」発言だったりするのかもしれない。なんたって beyond 空間で投げられた言葉だし。

妻さんや子どもさんたちが、苦しみながらも何とか前を向いて歩いている様子には感嘆する。
やさぐれたい時ももちろんあるけれど、そういう状態に留まらないでいることができたのは、本人たちの努力でもあり、お互いに支え合って想い合ってきた結晶でもあるのかもしれない。
主人公だけが、そんなひとつひとつの積み重ねを体験できずに、寂しさを募らせる。
自分が周囲を置いていく時は、彼も精一杯なのだが、いざ自分が置いてけぼりになると、やっぱり苦しみを感じるものなんだね。
お隣の子もかわいかったけれど、主人公の対応は過去の傷を乗り越えてないことから来ているのだろうと想像できたりもして、知らんよなあ、お隣の子は、そんなこと。
そういう場面からも、主人公は自分しか見えてなかったように思える。
誰かと比べていると、目の前の幸せが色褪せて見えることがある、それが理解できるからこそ、苦しい。わしが。
目の前の幸せを鮮やかに保つのも、日々の意識と努力が必要なんだよね。昇進を躍起になって目指す時とは違う類いではあるけれど。

一時停止して上司さんのほっぺたパァンするところとか、妻さんの再婚相手の最弱点を1度で十分なのに2度目も容赦なく打つところとか、クスッとできる瞬間もちょこちょこある。
確かに犬さんたちは、人と比べると短い生涯だね。犬さんに限らずだけれど。
愛犬の死は途方もなく辛いことだと聞く。そんな大切なことすら飛ばしてしまって顔を覆う彼が、その先でも同じような辛さを繰り返したりして、やっぱり苦しい。わしが。
2度と来ないであろうやり直しの機会、笑顔で溢れる日々を積み上げていけますように。
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