ランティモスな夢を見た
予告でも使われていたユーリズミックスの名曲"Sweet Dreams (Are Made of This)"は本編冒頭でも流れるわけで、それは本作が何より夢(について)の話であることを示している。で、実際に観てみると、コレほどピッタリな曲も無いなと思うくらい歌詞が言い得て妙な胃もたれ必至のランティモス全部乗せ。飼われて、疑って、捜して。夢と妊娠、魚より肉バーガー。ファックはいつでも絡んでくる?言ってしまえば過激なベストアルバムあるいはコンピレーションみたいな作品。
では、それが誰の(見る)夢かと言えば、この社会・世界に【生きづらさ】を感じて【自分の居場所を探す】者にとっての夢だ。だからこそ観ていて感じるこの監督特有の窮屈さ・息苦しさ。こんな厄介な本作をクリスマス当日に配信開始するという確信犯っぷり!まさしく一見脈絡なくもそれぞれに毒っ気満載に浮かび上がる作品のテーマにも則る・沿っているだろうか。別に非リア充や独り者に限らず、世間が浮かれるタイミングにそれを素直に楽しめないでいる全ての人に向けたプレゼントだ(という意味では自分が創作に向ける原動力とも奇しくも重なる)。
奇妙にヘンテコ、そして時折ものすごく痛そう。厭世的というか人間嫌いというかとにかくクレイジー。シュールでどこかおかしい緊張感と歪さはじめヨルゴス・ランティモスによる彼らしい不条理に満ちたイカれたブラックユーモアに彩られた作家主義(ゆっくりと引いたり寄ったり魚眼レンズ気味に湾曲する広角レンズ使ったり)、監督らしさ全開のユニークな作風の中で、毎章痩せては髪の毛も短くなっていくジェシー・プレモンスなど豪華アンサンブルキャストが魅せる。3章目のエマ・ストーン、ウィレム・デフォー然り。
【1章】
痩せたか?
子供、事故、そして構ってほしいがための"振り"で本当に自分を傷つけてしまう必死さが愚かしいのだけど他人事じゃない怖さもある。得たもののためにどこまでてきるか、手放したくない必死さに常軌を逸した願いも聞き入れてしまうのか
【2章】
誰だ?聞こえないぞ
着信音、チョコとラム、そして生還した妻の様子がどこかおかしいと感じる夫。陰謀論・疑念が身を滅ぼすのか…。飢えて気づいた、食わず嫌いせず食べられるものは食べられる時に有り難く食べておけ。
【3章】
喉が渇いた
水、モーテル、そして教祖の涙で清めた聖なる水しか飲めない水分カルト教団の救世主をめぐる人探し。『哀れなる者たち』のぎこちない動きから抑えられぬ本能のまま身体が躍動するようにダンスを覚えていくダンスシーンも圧巻だったが、本作でもまたエマ・ストーンが素晴らしくアイコニックなダンスシーンを見せてくれる!