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昆虫怪獣の襲来のambiorixのレビュー・感想・評価

昆虫怪獣の襲来(1958年製作の映画)
2.2
先日見た『月のキャットウーマン』に続くアメリカ人放射能なめすぎだろ映画第2弾。『月の〜』と同じくクソ映画界の巨匠、アル・ジンバリストが製作プロデューサーをつとめております。ちなみに、監督のケネス・G・クレインという人はあのエド・ウッドの脚本を映画化した『X博士の復讐』なる作品も撮っているらしく、クソ映画クリエイター同士なにかしら惹かれるものがあったんかなあ、ぜひ見てみたい一品です。
アメリカ人研究者が作ったロケットに乗って打ち上げられたスズメバチが宇宙放射能の影響で巨大化&異常進化、そのままロケットごと中央アフリカのど僻地に墜落して現地の人を襲いまくる、というのがお話の発端。くだんのロケットに関わった研究者2人が当地におもむいて調査するわけですけど、腰を上げたのはなんとロケットが落ちてから半年後。ロケットがいつどこに墜落したのかという情報を前もって知っていたにもかかわらずですよ、いくらなんでも無責任すぎる…。ここには科学軽視の視点と一緒に、アフリカの人間なんざどうなろうが俺たちの知ったこっちゃあねえ、みたいなアフリカ蔑視の視点も入っておるように思います。
驚くべきはこの映画、タイトルに冠された昆虫怪獣=巨大スズメバチがスクリーンにほとんど映らない。じゃあ、代わりに何が映っているのかというと、最初の拠点からスズメバチが出現した地点までの合計700キロ以上もの距離を徒歩でもって移動する行程だったり、途中でうっかり出くわしてしまった敵対勢力の大群から逃げおおせるスペクタクルシーンだったり、野営地で登場人物が他愛のない会話を交わしたり、およそ必要性を一切感じないラブロマンスのくだりだったり…といった模様で、これらが上映時間70分のうちだいたい55分ぐらいを占めています。
そして物語も終盤になってようやく巨大スズメバチ(異常繁殖がうんぬんなどと謳いつつも出てくるのはたった4匹!)と対峙するのですが、放射能で異常進化した彼らには拳銃も手榴弾もまったく通用しません。奮戦の甲斐なく主人公たちは洞窟への撤退を余儀なくされてしまいます。この段階で映画は残り4分ぐらい。ああ、このままみんな巨大スズメバチに殺されてしまうのか…と諦めかけた、その瞬間! 活火山が噴火して溶岩流があちらこちらに流れ込み、スズメバチを根こそぎぶっ殺していくのでした。これには空いた口が塞がらない…😲
「我々には無理だったことを火山がやってくれた」
いや、一言一句その通りなんだけどさあ、それじゃあ今まで主人公一味がやってきたことは一体なんだったんだよ!こいつらが何もしなくても結果的にスズメバチは死んでたんじゃねえか!ってな話になってくるし、極端なことを言えば「そもそもこの映画を見る必要なんかはなから無かったんじゃないのか?」とすら思えてくる。とにかく衝撃的としか言いようがない幕切れで、ハッピー/バッドの垣根を超越したきわめて虚無的なラストでありながら、同時に映画という娯楽のもつ根源的な無意味さをもわれわれに鋭く突きつけてくる、優れたメタフィクションにもなっているのでした。
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