【強行占拠する映画】
視野の狭さを起点に描かれる脚色部分はなるほどオスカー獲得の説得力。ラストの驚愕の展開は、現代にも残る家父長制に大きなメスを入れるメッセージ。心が強行的に占拠され、没入必至の一本。
◆トリビア
〇撮影現場には、宗教学の専門家がついていたという。ローレンスを演じたレイフ・ファインズは「イタリア語とラテン語を勉強したよ。枢機卿や司祭に会い、聖職者としての人生について話を聞いた」と、役作りへの真剣な姿勢を語る。(https://lp.p.pia.jp/article/news/414294/index.html)
○ ラストシーンで、ローレンス枢機卿の目に入ってくる光景は、古い体制が変わって明るい未来に向かって進んでいくということを表したと話す監督。「あのシーンにこの映画の本質があると思っています。」(https://www.gqjapan.jp/gallery/20250314-conclave-interview)
○シスター・アグネス役にイザベラ・ロッセリーニを起用した理由は、イタリア人であり、ナチュラルな演技ができるからと語る監督。「彼女はカリスマ性と否定しがたい存在感を持つ象徴的な存在です。彼女が演じることで、観客が「また彼女を見たい」と思うような人物になったのではないでしょうか。」(https://www.esquire.com/jp/culture/interview/a63925220/conclave-edward-berger-interview/)
〇衣装や細部にこだわりが。一流品を好み、派手な振る舞いを見せるテデスコ枢機卿は豪華な装飾品を身に着け、一方で背景に溶け込むほど謙虚なローレンス枢機卿は装飾品を最低限に絞ることで、対照的な存在感を際立たせている。(https://bcij.jp/ctg/film/27450.html)
〇枢機卿たちの緋色の法衣は秘めた野心を感じさせ、一方、修道女の紺色の修道服は自らを「目に見えぬ存在」と示唆するように、バチカンにおける女性の地位や内面的な静けさを象徴している。枢機卿たちから離れて修道女たちが歩くシーンについてイザベラ・ロッセリーニは「両者が交わることは決してない。それが、この物語における男女の関係を象徴している」と語る。(https://bcij.jp/ctg/film/27450.html)
○ 投票の舞台・システィーナ礼拝堂をはじめとする大規模なセットは、ローマの撮影所に実際に建設された。監督「過去の教会映画とは違うものにしたかった。本作の精巧に再現された世界を感じてほしい。きっと建築美とその世界観に引き込まれる。」(https://natalie.mu/eiga/news/614843)
○監督は本作について次のように語る。「私はこれを宗教映画とは呼びません。権力争いは宗教に限ったことではなく、人間の根源的な特性です。この映画は宗教そのものよりも、それに関わる人々の人間性を描いたつもりです。」(https://www.esquire.com/jp/culture/interview/a63925220/conclave-edward-berger-interview/)
〇原作ではローレンスの名前はロメイ、ベリーニ枢機卿はアメリカ人ではない。ともに、同じ宗派でも、個々の文化や背景の違いで考え方が違うことが明らかになるよう脚色されているという。(https://otocoto.jp/column/hollywoodmedia60/)
○コンクラーベの名称の由来はラテン語のCUM(共に)+CLAVIS(鍵)=「鍵と共に」で、「秘密の場所」を指す。数日に渡る選挙期間中、枢機卿(投票者であり候補者でもある)は隔離され、外部との接触や電子機器の使用を禁じられる。(https://cclv-movie.jp)
○ 現実の世界では、ローマ教皇フランシスコがこれまでの慣習を破り、シノドス(世界代表司教会議)の次官補に初めて女性を任命。同性カップルに正式な祝福を与える事を正式に認め、様々な指導者とも宗教間対話を行い、「各宗教が共有する価値観は、暴力の打破に用いるべき」だとする共同宣言に署名している。(https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/otocoto/entertainment/otocoto-otocoto_154384)
◆概要
第97回アカデミー賞作品、主演男優、助演女優、脚色など計8部門ノミネート、脚色賞受賞作品。
【監督】
「西部戦線異状なし」エドワード・ベルガー(同作で第95回アカデミー賞国際長編映画賞ほか4部門を受賞)
【出演】
「シンドラーのリスト」レイフ・ファインズ
「プラダを着た悪魔」スタンリー・トゥッチ
「スキャンダル」ジョン・リスゴー
「ブルーベルベット」イザベラ・ロッセリーニ
【公開】2025年3月20日
【上映時間】120分
◆ストーリー
全世界14億人以上の信徒を誇るキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者で、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなった。新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票がスタートする。票が割れる中、水面下でさまざまな陰謀、差別、スキャンダルがうごめいていく。選挙を執り仕切ることとなったローレンス枢機卿は、バチカンを震撼させるある秘密を知ることとなる。
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◆以下ネタバレ
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◆視点
ローレンスの背面から始まる冒頭。その後、物語はローレンスの視点で終始描かれていく。冒頭は物語のキーを描くことが多いが、本作ではローレンスの視点で本作が描かれることが暗に示されていたように思う。亡くなった教皇が運ばれていく画にフルスクリーンでデカデカとタイトルが載り、背景がもはや見えないほど。このタイトルも振り返れば、密室で行われるコンクラーベにおいて、枢機卿達がどんどん陥っていく視野の狭さを表していたのかもしれない。スキャンダルに根回し、暴かれる愚行で枢機卿達の印象も次々と180度変わっていく。そんな意味でも本作は視点というものを映画の軸としていたと思う。
◆脚色
アカデミー賞受賞というとこで否が応にも注目だった脚色部分。原作未読なので深くは言えないが、一つは前述した視野の狭さの表現。ラストで初めてローレンスが礼拝堂の外を見る、つまりそこまで外の景色が一切描写されない演出も、強欲に視野を支配される愚かさの表現であり、見る我々も最後でその事に気づきハッとさせられる。細かく言えば、ローレンスが原作ではロメイというイタリア名、ベリーニが原作ではアメリカ人ではないという事実も、よりリベラルに本作を描く工夫の一つ。予測だが、ベニテスがインド人で、戦争各地を回ってきた経験を持つ事も、本作をよりリベラルに、より説得力のある人物に作り上げるための脚色だったように思う。ローレンスが自らに投票した直後の爆発が、まるで壁画に描かれた神からの天誅のような演出もおそらくそうだろう。全体的に色彩が鮮やかで、野心の現れにも見える枢機卿達の法衣の緋色と、“見えない存在”のシスターの少しくすんだような紺色の色分けも印象的で、脚色の“色”の部分もこだわりが感じられた。
◆ラスト
ベニテスが教皇の座を勝ち取るラスト。まさかの女性性が明かされる。ローレンスの言葉の通り、“確信”の狭間で生きていくというベニテスの明言は、現代のダイバーシティにも相通ずる。振り返れば戦地を経験した彼がテデスコの戦争発言を揶揄し、“内なる戦争”に留めるべきとの言葉も、戦争がいまだ続く現代に大いに響く。本作が描く、教皇制における根強い家父長制に、根の部分からひずみを入れる存在に彼はなったわけで、これもまた現代にはびこる家父長制に対して意義深い。教皇も愛した亀が池から脱出していたのは、生きてきた世界と違う場所に身を置く事の暗示か。結果初めて外の景色を見た、つまり視野を広く持って世界を見てみたローレンスの朗らかな横顔も印象的。そこには本作で一つの笑顔もなかった“目に見えない存在”の修道女達が笑顔で歩く姿。それは本作が訴える普遍的なリベラリティの先にある、小さくても明るい未来のように思えた。
◆関連作品
○「西部戦線異常なし」('22)
エドワード監督の代表作。戦場の異常さを描く。Netflix配信中。
◆評価(2025年3月20日現在)
Filmarks:★×4.0
Yahoo!検索:★×3.4
映画.com:★×3.7
引用元
https://eiga.com/movie/101546/