アカデミー賞では脚色賞を受賞し、前評判からもかなり評判のよかった本作。
教皇選挙と堅苦しいタイトルがついていますが、いわゆるコンクラーベ自体はそれなりに有名ですし、そして聖職であるが故に裏側が見えない世界なので単純に興味もあって、尚且つストーリーはミステリー映画として娯楽性もたっぷりなので、どこかしらに興味を持ったらぜひ鑑賞しておくことをおすすめしたい作品でした。
とりあえず本筋とは異なりますが、コンクラーベの裏側だけでも見る価値はあるんじゃないですかね。
昔新婚旅行でバチカンに行きシスティーナ礼拝堂は見たことがあるのですが、そもそも何の予備知識はない状態で鑑賞したのでどこまで再現性が高いかもわかりませんが、少なくとも建造物のクオリティは高かったですし、中身についても予習は全然なくても楽しめるようには感じました。
そもそも学びとして、教皇が亡くなってからの一連の流れとか、コンクラーベ自体をどのような流れで執り行うかとか、それだけで有意義ですよね。
それでもっていかに外部の情報を中に入れないようにするかという工夫として、スマホを回収するとか窓も封鎖して見えなくするとか、そういう細部のディテールもよかったですね。
なのでそれだけで十分知見が深まる価値はあるわけですが、本作はあくまでミステリー映画であるため、教皇に選出されるための裏側に様々な黒い画策があるのが面白みなわけですが、ちょっとややこしいのが登場する主要人物の名前ですね。それぞれ何回も名前とともにくり抜かれるのでキャラクターは把握できてくるのですが、名前だけだと誰やったっけ?は起こり得る気はします。この後記述する名前も記憶してたわけでなく、もちろん調べたものですし笑
なので一応ミステリー映画なので【ネタバレ】はない方が絶対いいのですが、もしキャラクターを覚えるのに不安がある場合は、続きのキャラ設定までは見てもらってもいい気はします。
とりあえず主人公はレイフ・ファインズ演じるローレンス枢機卿です。自らが候補者ながら今回のコンクラーベを執り仕切る人物であり、周囲からの人望も熱い。ただ、教皇になること自体には否定的で、コンクラーベ後には職を辞する思いを持っています。
そのローレンスが推しているのがベリーニであり、交友が深くリベラル派の思想を持つ彼に支持を集めたいという思いがあります。
ただ、その対抗馬として保守派でタカ派、伝統を重んじることが第一なテデスコ枢機卿や、同じく保守派でハト派、前教皇が亡くなる直前に会っていたという疑いのあるトランブレ枢機卿、また選出されればアフリカ地区で初の教皇となる黒人唯一の有力候補者アデイエミ枢機卿辺りが台頭してきます。
そして、教皇が突然死であったために謎のベールに包まれているのがベニテス枢機卿。アフガニスタン地区から来て、そもそも候補者であることすら誰も知らなかった新任の存在であり、選挙前から場をざわつかせます。
この辺りの人物さえ押さえておけば十分楽しめるはずです。
さて、いざ選挙が始まると実際投票結果は結構割れるんですよね。恐らく投票者数の3分の2を超えない限りは何度も選挙が繰り返されるため、その投票を巡って様々な陰謀が動いていきます。
で、やっぱり露骨に怪しげなのがベニテスなんですよね。登場からもわかるように。
ただ、コンクラーベ自体、それこそ教皇という立場自体が神聖なものであるにも関わらず、裏ではドロドロな情報合戦やら聖職売買やらで神聖さのカケラもないわけで、それこそコンクラーベを公平性を持って執り行うことに尽力するローレンスでさえ禁忌を侵してしまうわけです。
まあこの辺りのフリは前半から効いてきますね。それこそ聖職者とはいえタバコは吸うのね、スマホは触るのね、という人間臭い一面が見られ、いや、それ自体に問題はないのですが、教皇という座を争うのもあくまで人間であることを印象づけていたと思います。
そしてその争いの中で、文字通り「戦争」という言葉を用いて場の空気をガラッと変えたのがベニテスだったわけですね。
アフガニスタンなどの危険地区で本当の戦争を見ているからの言葉であり、そんな彼だからこその言葉の重みもあり、あの展開には必然性がありました。
ただ、本作の大オチはここではなくて、ベニテスの正体が明らかになる場面ですね。
その前にもう一つ、場の雰囲気をガラッと変えたシーンがあって、それがシスターアグネスが主張したあの場面ですね。
女性というだけで立場が弱く発言権もない状況で、明確に力のこもったあのシーンは名場面だと思います。
そしてそんな女性的な一面を文字通り持っているのがベニテスであり、彼自身がインターセックスであることが明らかになるわけですね。体自体は男性であるが、体の中には子宮があると。
女性である時点で教皇の権利は失うわけですが、現実的には彼が権利を得たわけで、まさにミステリー映画の見事なオチながら、時勢を踏まえたこれまた見事な着地を見せた本作。一見の価値はあると思います。