(2025.39)[13]
ローマ教皇が病気により急死し、次期教皇を決めるための選挙“コンクラーベ”の取りまとめをイギリス教区の枢機卿ローレンス(レイフ・ファインズ)が行うことになる。有力候補となるのはリベラル派のアメリカ教区ベリーニ(スタンリー・トゥッチ)、伝統主義の保守派最先端のイタリア教区テデスコ(セルジオ・カステリット)、穏健派保守だがきな臭い噂が聞こえるトランブレ(ジョン・リスゴー)、決まれば初の黒人教皇となるアデイエミ(ルシアン・ムサマティ)の四人であり、それぞれの思惑や政治的暗躍によりローレンスは翻弄されることになる。そんな中、名簿になかったカブール教区のベニテス(カルロス・ディエス)が現れたことから事態は更に混迷を極め……というお話。
一般人から見ると謎に包まれたコンクラーベを題材に、絶大な力を持つ教皇の座を巡って巻き起こるミステリーを描いている。自分とは縁遠いカトリックの話なのであまり細かいニュアンスは分からないかもと思ったが、全体的に分かりやすく噛み砕かれているため、何が起きているか追いつけないようなことは全くなく、娯楽映画としてシンプルに楽しめる。格式ばった選挙の様子を表すかのように映像や劇伴も端正な美しさがあり、純粋に映画としての完成度が高いと感じた。
レイフ・ファインズ始め、シワの深い良い顔の親父達の見せる演技も素晴らしかったが、そんな中でも出番は少ないながら大きなインパクトを残すのがイザベラ・ロッセリーニ演じるシスター・アグネス。男だらけの……というかそもそも男性しかなれないという枢機卿達の中で、選挙のお手伝いをするシスターを取りまとめる存在なんだけど、この“女性は選挙に参加できない”という前時代的なルールに一つの風穴を開けるような役割を担っており、地味ながらかなりのキーパーソンで、その毅然とした表情の格好良さも含めて良いキャラクターだった。
良く出来た映画であるというのは間違いないんだけど、その一方で整い過ぎていて遊びがないようにも思えた。
基本的に怪しい奴はその通り裏がある嫌な奴だし、順当に選挙から脱落していく。リベラルも保守も極端に記号化されたキャラクター過ぎだし、基本的に分かりやすさに全振りしているようなところがあり、謎めいたコンクラーベを描く作品としては見通しが良過ぎて物足りなく感じてしまうところがあった。
選挙の結果が決まる決定打となる場面も何となくフワッとしており、理屈は分かるんだけど周りの心情の動きみたいなものが見えてこないので、やや唐突に思える。また、ある秘密が最後に明らかになるわけだが、それを大オチみたいな形で扱ってしまうのってちょっと乱暴なんじゃないかな……とも思ってしまった。要するに今作はトランプ政権が生まれてしまうような世界に対するカウンターのような意味合いがあるんだと思うんだけど、それが突然現れた救世主みたいな存在と偶然の事故がきっかけでたまたま何とかなった……みたいに読み取れてしまうのは個人的に腑に落ちないところだった。
『12人の怒れる男』のように、議論に議論を重ねて投票者達の心を動かしていくような話か、ローレンスを探偵としたミステリーものとしてのスリリングさを期待していたところがあったので、メッセージありきの頭でっかちな形になってしまっていたのは自分の好みとは少しズレていたかなという印象。最近こういう映画が多いような気がするのは、映画がメッセージ性を強く帯びなければいけないくらい我々の日常が危機的な状況にあることの裏返しなのかもしれないが。