ジェットコースターのようなストーリ展開、前半と後半のコントラスト(文字通り、色もガラッと変わる)、ラストシーンのカタルシスに至るまで、極上の映画体験だった。
賛否を呼びそうな本作が、アカデミー作品賞をはじめ多くの賞を獲得したことは映画界の懐の広さを感じる。
職業に貴賤はない。言うは易しのキレイごとを真正面から描く。
社会構造のひずみから弱者が性産業に従事せざるを得ない現実があったり、社会の暗部と性産業のつながりを否定できなかったりしても、憎むべきは社会そのものである。自由意思が前提ではあるが、Sex work is workに象徴されるように、当事者は、同情されるような存在ではないし、搾取する/されるという関係に置かれるわけもない。
性的な魅力は、まごうことなき能力である。それをどう生かそうが当人の自由である。
アノーラ=光は、自身の魅力にプライドを強く持ち、同情の対象とされることを心底嫌う。
自身の価値の再確認を試みるラストシークエンスは非の打ちどころがない。無音のエンディングは、彼女の打ちひしがれた悲しみとともに、彼女の強い反骨心を感じさせるのである。
少し敷衍して考えると、本作は、社会の様々なスティグマへ警鐘を鳴らしているともいえる。凝り固まった思考を取り払うために、薄っぺらいスローガンの何百倍もの効力を持っていると思う。