東宝東和ではなく、松竹系が配給しているからどうもおかしいとは思っていたのだが、予告編で流れる「全米興収No.1」はどうやら独立系作品の全米興収1位らしい。然しながら独立系では2024年のNo.1ヒットだと言うから驚きである。ある意味、数週前の『SKINAMARINK/スキナマリンク』と同じような触れ込みと切り口の作品である。近年、アメリカ映画はこのような低予算の映画が増加傾向にある。要はアカデミー賞にノミネートされる作品とは最初から予算規模が違うのである。然しながら監督やプロデューサーや俳優陣の中にかつてオスカーを獲った人々のクレジットがあることからも判るように、意外な小品が多いのである。1990年代半ば、オレゴン州。FBI捜査官リー・ハーカー(マイカ・モンロー)は経験の浅い若手ながら並外れた直感力を買われて、未解決事件の担当に抜擢される。ごく平凡な家族の父親が妻子を殺害後、自ら命を絶つという不可解な事件が過去30年間に10回も発生していたのだ。被害者家族には誕生日が「14日」の幼い娘がいて、現場には「ロングレッグス」の署名入り暗号文が残されているという共通点があった。ハーカーはその暗号を解読し、徐々に事件の真相へ近づいていくが、やがて彼女の過去とロングレッグスに、意外な接点が浮かび上がる。
予告編を観た時点ではよもやニコラス・ケイジの出演はないと思ったのだが、オープニング・クレジットにニコラス・ケイジと表示された時点でおいおい待ってくれと。序盤も序盤に半透明カーテンが登場した時点で、オズグッド・パーキンスが黒沢清の『Cure』を念頭に置いたのは明らかである。90年代、あらゆるサイコ・サスペンスが猛威を振るった。若き日の黒沢さんは『地獄の警備員』という無邪気なホラー映画の編集作業中に偶然、劇場で『羊たちの沈黙』を目撃してしまい、「しまった」という後悔に苛まれたという。映画は『羊たちの沈黙』をJホラー的に再解釈した『Cure』とおそらくフィンチャーの『セブン』や、故デイヴィッド・リンチの露悪的な白昼夢の描写が延々繰り広げられる。30年間10の家族が惨殺された挿話など殆ど意味がない。曰くありげなダイイング・メッセージもレタリングもミスリードで、後半30分で伏線回収せんとする唖然とするような流れに身を任せる。然しながら人物の相関図がわかった時点で驚き、その銃火器系では根絶出来ない恐怖に慄く。ニコラス・ケイジのホアキン・フェニックスの「JOKER」ばりの演技は過剰で、怖いというかうるさいのだが流石である。しかしT.REXとかマーク・ボランとかルー・リードとか誰がわかるのと言ったおじさん具合で、好みが別れそうである。