青二歳

鰯雲の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

鰯雲(1958年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

成瀬ドラマまさかの農村。
ガマみたいにノソノソと言われる中村鴈治郎がやっぱり可愛い〜(*´∀`)♡しかし淡島千景と中村鴈治郎が兄妹とはいささかムリがある…が、淡島千景曰く気苦労から「年齢より老け込んだ兄」ということらしい。旧弊で時代の変遷に対応できないなんとも嫌らしいキャラクターだけど、この多くの登場人物の中で一番愛おしい。
歌舞伎役者ですからね、女形とかこなしちゃう方ですよ。なのにこの野鄙っぷり。見事です。

もちろん映画としての主役は淡島千景だろうけども。なんせこの戦争未亡人、とにかく人が寄ってくる、頼られる。本人は嫁ぎ先では居場所がなく姑にいびられ、"嫁=労働力"としてしか扱われないのだが、実兄(中村鴈治郎)からも甥っ子(小林桂樹)からも頼られっぱなし。厚木の農村部と都市部をつなぐ役所でもあり、妾になった旧友の新珠三千代と旧交を温め、女学校出のインテリとして新聞記者の取材に応じたりとなんのかんの忙しい。
なおこの新聞記者(木村功)と不倫関係になり、ここもストーリーの核なんだけれども…木村功の説得力のなさと言ったら!

振り返ると成瀬らしく大筋はあるようでなく、元地主の本家の血縁関係をめぐるカネの話がこれでもかと重なってくる。成瀬のカネの話はいつ見ても説得力があり、この辺り特に今見ても色あせないことに驚くばかり。人生の節々で多くの慶事弔事があり、学費や独立など用立てなきゃいけない場面に出くわす。農地改革で土地を失った中村鴈治郎一家、家長の妹(淡島千景)の嫁ぎ先、分家、子らの独立結婚…そこにははたから見たら小さいながら、当人たちにとっては大きなカネのドラマがある。
そしてこれらをジェネレーションギャップドラマとして観れば、戦後民主主義的な浮かれっぷりではなく、普遍性のあるテーマをえぐっていて、その容赦なさに愕然となる。その点ではやっぱり中村鴈治郎が主役だろうと思うのです。あらがえない時流の中に立ち尽くす意地と寂寥感。"流れる"の山田五十鈴のように、その新旧世代の間に立つ者のまなざしに強く惹きつけられる。
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