愛国心の強い予審判事とその家族の物語を、重厚かつサスペンスフルに描いたヒューマンドラマ。
『悪は存在せず』がとても素晴らしかったモハマド•ラスロフ監督。
愛国心を次第に歪ませていく父、政治問題や人権問題から距離を置きたいと目を瞑る母、そしてデモや自己主張する人々に感化される現代的な娘たち。
そして家の外では、ヒジャブを着用しなかった女性が警察の暴力により死亡し、女性の自由を求めるデモが各地で頻発している。
女性の権利や死刑制度などイランのマクロな問題を背景にしながら、価値観のすれ違う家族のミクロな物語が展開する。
"国家"という枠組みの汚染から、"家族"という枠組みが容易く壊死していく。
そして終盤からは物語が一気に転調し、怒涛の展開を見せる。
静かに熱が滾る、不条理で圧倒的な社会派ヒューマンサスペンス。
抗議デモやそれを過剰に鎮圧する治安部隊のシーンもあり、イランのタイムリーな現状が反映されている。