前情報なしになんとなく足を運んだら大当たり!とてもおもしろかった!
エンタメとして高品質でありつつ、イランの学生運動やその弾圧も直接的に取り扱った意欲作。実際のデモ弾圧映像も引用しており、痛ましい光景を突きつけてくる。長らくイランの女性は従属的であるのが善とされてきた。ひいてはママはパパの代行人として姉妹を抑圧し、パパのご機嫌を伺いつづける。家父長制において「母」とは被害者・加害者どちらかではなく、その両方なのだ。
また、政治性・フェミニズムを抜きにしても、ジャンル複合的なエンタメとしてすごい。
第一幕は歪な家庭環境をあつかった家族映画、第二幕は擬似的なミステリー&法廷映画、第三幕は『シャイニング』『第三の男』になる。全編において共通しているのは、建築の異様なまでの複雑さを恐怖の源泉にしていること。いちいち気色の悪い暗がりを作り出す家の設計に、震えると同時におかしくて笑いそうになる。
あと一瞬だけど、自動車運転中に運転者の一人称視点が突然差し込まれるシーンがあるんだけど、めっちゃ怖かった。
また、黒沢清監督の映画さながらに、カーテンや窓などの「ひらひらしたもの」「透けるもの」がいちいち気色悪い。しかもその単なる雰囲気づくりのものじゃなくて、最後の最後にとある描写によって、肯定的に回収される。
余談だが、空音央『HAPPYEND』と、あらすじや世界観設定はまったく違うけど、どこか共通するものを感じた。
どちらとも、学生と労働者、世代間の道徳・文化的な分断。見てるメディアの違いをまざまざと描く。ガジェットをつかった演出もうまい(スマホのメッセージとか)。あれだけ強権的なパパ・ママがぼけーっとTVを観ている姿はマヌケすぎて笑えてくる。
高品質なエンタメでありつつ直接的にポリティカルな表現をやってるとこも共通してて、いまの世界は切羽詰まってるんだな、と否応なく思い知らされる。
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ほんとにベタすぎる解釈なのは承知で言うけど、拳銃って男根のメタファーだよね?