このレビューはネタバレを含みます
イランの社会情勢とイスラム教社会での家庭環境の社会風刺を盛り込みつつ、うまいことサスペンスへと点火させる素晴らしき手腕。
2025年アカデミー賞国際映画賞にノミネートされておりいろいろと話題な今作を見に行ってみた。
まず本作は現代イランで判事の職にありつけそうな男の家庭を描きつつ、その家庭が社会の荒波に呑まれ変わっていってしまう話を描いたサスペンスだ。
いやはや前半のイランの社会情勢周りとイスラム教家庭の現実をうまいこと理解させる丁寧さが凄く、これを見るだけでなんとなく現代イランのリアルを垣間見ることができるのではないかという下拵えが素晴らしい。それと"ブラッククランズマン"のラストで現実を見せつけたスパイクリーの手法と同じく、イランで今起こっているデモ運動のサンプリングが各所に挟まれることでこれがリアルだと語る仕様にはやはりヒヤヒヤさせられた。
そんな下地があるからこそ家庭内で反抗する娘たちが輝くし、それに対し抑え込もうとする両親の姿がまさに旧時代の人々に見える危うい家庭ドラマが実はかなり見応えたっぷり。前半中盤とリアリズムが先行し集中させるスタイルで、それだからこそ後半がドラマティックに見える魔法にかけられる。
なんとも後半はヒッチコックのようなサスペンスが展開されるのに脱帽、不安により疑心暗鬼になる父親の姿が暴走していく展開にあっという間に戦々恐々してしまう。もはや胸糞と言うべき家庭崩壊が待っているのは言わずもがな、実はかなり見応えある社会風刺が効いたサスペンスに変貌するとんでもない作品だと言うことがよくわかる。
脚本のうまさというよりかは現代イランの社会問題に限らず、全世界どこでも起こりうる家庭不和が起こす悲劇としてとてつもないパンチを秘めた意欲作でおったまげた。