事件は続編でも起きなかった。
前編で、室井の家の側に埋められていた死体が殺人事件であるとして秋田県警北大仙署に捜査本部が置かれる。秋田県警の本部長は、室井とは因縁のある新城/筧利夫が着任している。秋田県警の本部長の椅子には、本来、室井が座っているはずであったのですが、もうムリ、とばかりに退職してしまって、そのお鉢が新城に回って来たのでした。新城曰く、キャリアの終着点がここだなんて、と室井にうらみつらみをぶつけます。で、新城から、捜査を手伝ってくれといわれて、捜査本部に出入りするのですけれど、この続編で、この声には聞き覚えがある、なんちゃって、犯人を特定してしまいます。
秋田の山奥で犯罪者のこどもの里親として暮らす日々。「北の国から」みたいになっていく。室井の家に寄宿する高校生男子貴仁/齋藤潤の恋物語。同級生紗耶香/丹生明里と仲良くなり、真冬の帰り道好きな本の話なんかしたり、将来の話をしたり、今度家に行ってみたい、なんて彼女の思わせぶりな上目遣いににやけてしまう貴仁だけど、意を決して家に招待してみたら、ごめんなさい、パパが犯罪者の子と付き合っちゃ駄目だって、と踵を返して去って行ってしまう。え?気を取り直すつもりで図書室に行くと、なんと彼女は少し大人っぽい男子とあの上目遣いを駆使して楽しそうに話しているではないか。♬さよならの言葉だけが/白い吐息になって/あとは涙で見えない/幸福すぎたから//夕焼け帰り道/ひとりぼっちの影が映ってた♬(冬の日の帰り道/作詞:小泉まさみ)初恋は成就しないのだよ。
同じく同居人の小学生凜久(リク)/前山くうが、前山こうが(のふたり一役なそうな)は、何で何での年頃で、何で室井さんはホントの子どもがいないの、なんてへっちゃらで質問して、まわりをハラハラさせる。結婚していないからだ。何で結婚しないんだ。恋はした。なんて、小学生にはとんちんかんな答えじゃ無かろうか。そんなリクの親父は服役中だったんだけど刑期を終えて出所する。リクの記憶だと親父はいつもイライラして手をあげている怖い存在なんだけど、でも、刑期を終えてリクの下に現れるや、パパ~と駆け寄ってしまう。こどもはおとうさんおかあさんが大好きなのになんであんなにも沢山児童虐待のニュースが流れるんだろうか。リクの父親/加藤浩次の境遇はといえば、何をやっても長続きせず幼子を残して女房には逃げられ、幼子を殴るしか憂さを晴らせない、そんなどん詰まり。どこかでいい話があると聞いて、リクに、帰ってきたら美味しいもの沢山食べような、と言い置いて、そのまま何があったのか逮捕されるてしまう。警察が自宅を捜査すると、何も食べていない瀕死のリクを見付けて、ということだった。そんな過去があるから、児童相談所の美人職員/稲森いずみに、おとうさんは刑期を終え生活をやり直そうと努力しているのですからリク君はおとうさんの下に戻さなければなりません、と言われたって信用なりません。禁を犯して、リクに手を上げるなと説教して手放す。リクを手にした加藤浩次は、生活保護の申請をするにあたってリクを引き取るとどれくらいになるのか云々と問う。あたし間違ってるのかも、という表情の稲森いずみ。で、案の定、リクはボロボロになって室井の家に遠路はるばる逃げ帰ってくる。
わたしの本作鑑賞の目的である杏/福本莉子は前編でサイコパス小泉今日子の娘であると明かされていて、室井家の納屋を焼いたり、何もしていないのに室井さんにぶたれたとか、室井家を崩壊させようという悪魔的な所業に驀進していくのかと思ったら、謎の金庫に入っていた猟銃を持たされ、撃ってみろ、なんて言われて、手を震わせながら一発撃つのだけれど、もう一発と促されても、もういいと震える手のままに室井に猟銃を返すのです。それからというもの彼女は母親の呪縛から解き放たれたかのようににこやかに過ごすことになるのです。
はて。おおむねこんな感じの物語が続いていって、なんじゃらほい、と思ったのはわたしだけであろうか。まあよい。室井さんは警察官じゃないのだから事件に直接かかわりあうことがあろうはずもないし、あったとしてもかつての上司沖田/真矢ミキの擁護のひとつもなければ成り立たない。事件なんて起こったって出番はないのだ。だからなのだろう、こんな話になってしまうのは。が、予告篇は匂わせばかりで許しがたい。
で、家族でいる時間は短いと言いつつ室井は死んでしまうのだけれど、室井が青島との約束だという、現場の捜査員が働きやすくなるように警察組織を改革する、という改革案を秋田県警本部長の新城が秋田県警がモデルを作って全国に発信するなんて言うし、室井が死んで残された子供たちの今後はと聞かれると、室井さんが酔っ払って機嫌よく話していた、ここをもっと広げて沢山の子どもたちを引き取るんだ、かんがえるだけで楽しいぞ、との思いを実現させるために室井家に残るらしい。杏は農家で働き、貴仁は東京大学目指して受験勉強に励む。タイトルの、生き続ける者、というのはそういうことらしい。まあよい。
でも、エンドロール後にあの男が出て来るのは一体どういうつもりなんだか。東京からはるばる秋田の山奥の室井の家の前まで来たのに、電話一本で、はいはいすぐ戻ります、って踵を返すなんてあり得ない。こいつ、すっかり小さな組織人に成り下がってるわい。