デニロ

エターナル・サンシャインのデニロのレビュー・感想・評価

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
4.0
あまりファッションには重きを置かない人生を送っているわたしなのですが、これは真似をしたいと映画を観て思ったスタイルが二つある。そのひとつが『タクシー・ドライバー』トラヴィス/デ・ニーロのジャンパー姿。映画の中の姿というよりも、ポスターの中でデ・ニーロがジャンパーのポケットに手を突っ込んで歩く姿に都市特有の孤独を感じたのかもしれない。1976年の冬、わたしはそんなことに感応していた。真似して高校時代から来ていたペラペラのジャンパーを着ていたら、寒くないのか、と友人に言われた。確かに東京の冬はとても寒かった。もう一作が2005年に観た本作だ。クレメンタイン/ケイト・ウィンスレットの気まぐれな髪の色の変化よりも何よりもオレンジ色のパーカーが気になって気になって。オレンジ色のパーカーを探したんだけどなかなか見つからなくて、どういう神経だったのかどうしてもオレンジ色を着たくて、ユニクロで目に付いたオレンジ色のフード付きダウンジャケットを買ってしまった。

大昔。わたしの恋が成就した例しのなかった頃。簡単に言えば失恋しか経験したことのなかったあの頃。本屋で立ち読みした漫画にひどくこころを打たれた。丸々一篇を立ち読みできる時代だったんだろうか。その作品は、手塚賞の準入選作「失恋回収省」という三墨正季の描いた漫画だった。失恋したこころを抜き取る機械が発明されて、失恋者がその機械に群がって、というような。最後は、その機械が壊れたのか壊されたのかして、閉じ込められていた失恋の記憶、こころが雲散霧消して、でも、空無になるはずなのに雨のように人々に降り注いでしまって、それを浴びた人々がなんだか懐かしいこころもちになった、というような話だった。

2005年に本作を観た時、その漫画を思い出した。

どこかの政党代表じゃないけれど、概ねその通りのストーリーで、ジョエル/ジム・キャリーとクレメンタインのボーイ・ミーツ・ガール。20年前はジョエルのめくるめく思いに胸が張り裂けそうになったのは、わたしの中で閉じ込められていたあのこころが弾け飛んだからだったんだろうか。

20年振りに再見してあちこちに時間が飛んでこころを失くしていく時間移動を体感したんだけれど、もはやあの頃の感興が湧きおこらないのもまた悲しいものだ。ジョエルとクレメンタインという恋人たちの100の偽りだけじゃあなくって、すっかり忘れていたキルスティン・ダンストの出演に目を瞠った。当時売れっ子だった彼女が下着で踊るだけのセクシー担当だけじゃないよなと思っていたら、最後に物語を大転換させる重要な役割を果たしていた。「失恋回収省」で言えば、機械を壊した実行者だろうか。

2005年製作。脚本チャーリー・カウフマン。監督ミシェル・ゴンドリー。

Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下  製作20周年記念 特別限定上映 にて
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