雄大な山奥の谷で力強く生きたとある男の物語。
人間誰しも、自分の人生を振り返る瞬間がやってくる。その時、どんな人生を振り返りたいだろう。温かで幸せな瞬間ばかりを思い出せたらよいだろうが、挫折や後悔といった苦い感情も思い出すに違いない。それらを総合して「よい人生だった」と言えたらいい・・・と思っていた。では、アンドレアスはあの終点へ向かうバスの中で自分の人生をどう振り返っていただろうか。度重なる苦しみと悲しみを静かに受け入れ、目の前の今をがむしゃらに生きてきた彼。すべてを振り返って良い悪いの決断をつけるのではなく、ただ一つ一つの瞬間をそのように生きてきたのだ、と受け入れていたのではないだろうか。幸せな人生だったと記憶を書き換えて思い出すよりも、そのほうがよっぽどいい。それこそ確かな重みと厚みのあるかけがえのない真実なのだから。
一度きりの人生、過去にも未来にも囚われず、今を懸命に生きることが大切だと感じた。そのためには、しなやかにしぶとく生きる心の強さがいる。人や時代が変われども気高くそびえるアルプスの山のように変わらない強さだ。