ヨーク

デビルクイーンのヨークのレビュー・感想・評価

デビルクイーン(1974年製作の映画)
3.7
何やら“伝説のカルト映画!”的な感じで紹介されていた本作『デビルクイーン』なのだが、実際に観てみればまぁ何ということのないB級な匂いがそこかしこから漂ってくるようなへっぽこ映画であった。いやだって紹介の仕方だが凄いんだよ、本作を上映中のシアター・イメージフォーラムのサイトから紹介文を抜粋すると“ギャング、同性愛者、ドラァグクイーン、娼婦など、軍事独裁政権下のブラジルで最も疎外された人々を、強烈なサウンドと極彩色の美術、暴力とクィアネスを融合して描いた本作”ということなのだ。いやまぁ間違ってはいないよ。その紹介文は全く間違ってはいないけど、幾分かは現代に生きる我々の目から観て「こういう映画ということにしたい!」という欲が溢れているような紹介の仕方だなぁ、と思うわけですよ。
特にクィアがどうのこうのという部分ね。本作は1973年の映画で、50年も前の作品ということになるのだが現在(2024年)の目で観れば色々と作中の描写に意味を見出したくなるというのは分かるものの、本当にそういう意図で作られたのだろうか? というところは結構疑問の余地がある。ちなみに俺はパンフレットも購入していないのでそこに監督のメッセージとかもあるのかもしれないが、少なくとも個人的には現代的な価値観である性的な多様性の尊重とかそういうものはほぼ感じなかった。監督であるアントニオ・カルロス・ダ・フォントウラという人のことは寡聞にして存じ上げないので実際に作品を観た俺の印象といういい加減なところでしか語れないのだが、多分この監督は「オカマがギャングの親分をやってたらオモロイだろ!」くらいのノリで本作を撮ったんじゃないかなぁと思うんですよね。そしてそういうアホっぽくて緩いノリが面白い映画だなぁ、と思ったんですよ、俺は。
お話はまぁそこまで複雑なものではなく、デビルクイーンと呼ばれるリオデジャネイロの裏社会を牛耳るギャングのボスがいて、その人は裏切り者には死をという感じのいわゆる恐怖政治的な体制を敷いていてその統治はある程度は上手くいっていたのだがゲイのデビルクイーンが目をかけていたハンサムボーイが揉め事を起こし警察に追われる羽目に。その身代わりとしてデビルクイーンの縄張りのキャバレーでヒモをやってる別のハンサムボーイを仕立てるのだが、そのせいで事態は二転三転していき…というお話です。
まぁちょっとコメディな部分もありつつ大枠で言えばギャングものといったところだろうか。ただギャングものとしてぶっちゃけ大して面白くはない。面白くはないのだが、上記したようにシナリオも演出もゆるゆるな感じがクセになる映画ではあった。なんだろうなー、これは。ドンパチシーンもあるし拷問シーンとかもあるんだけど、何かそこまでシリアスな感じはしなかったのだ。むしろシリアスな現実に対して、そんなに深刻にならなくても何とかなるぜ、っていう感じの楽天的な前向きさを感じるんですよ。
これは多分、引用したイメージフォーラムの紹介文にもあるように本作が制作された1973年という時期がブラジルの軍事独裁政権の時代だったということは少なからず関係はあると思うし、確かにその頃に性的マイノリティは肩身が狭かっただろうとは思うが性的マイノリティどころか社会全体がピリピリしてたと思うんですよね。だから単に既存の社会構造とは異なった世界を描いてみたかったということなんじゃないだろうかと思うんですよ。そういう印象なので個人的にはクィアがどうのこうのというのは作品の本質にはあんまり関係ないと思う。オカマがギャングのボスだったら面白いだろ! っていう90年代から00年代初頭の三池崇作品みたいなノリの映画っていうのが本当のところなんじゃないかな~、と思いますね。
でも俺、90年代から00年代初頭(いや今でもだが)の三池作品とか大好ききだからな。そういう人間なので当然本作も面白かったですよ。ちゃんと組織の縦関係の統制取れてんのかよ…って心配になるような緩い感じとか良かったですね。緩いのは作中のそういう細かい設定的な部分の描写だけでなく、撃たれたペプシのおっちゃんが地面に倒れ込むじゃなくて、よっこいしょ、て感じで寝転んでるだけな感じになってる映像面の緩い妥協感も素晴らしかった。そのテイクでいいんだ!? 今の撮り直さないんだ!? って感じでびっくりですよ。
繰り返しになるけど、でもそういう緩さがいい映画でしたね。その緩さっていうのは当時の世相の厳しさの真逆をやりたかっということなんだろうけど、そこは当時のブラジル社会を知らない俺なんかには本当のところは分からないにしても色々と想像力が刺激されて面白かったですよ。あとは本作を語る上で欠かせないとは思うが当時のブラジルのファッションや街中の雰囲気なんかも良かったですね。特にファッション面ではビビッドな色彩が強烈で楽しかった。
ま、あんまり持ち上げすぎずに昔の三池崇史にブラジル的センスを足して低予算で撮ったへっぽこ寄りなギャング映画だと思えばかなり楽しめるのではないだろうか。俺的にはそういう感じが良かったですね。
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