デニロ

本心のデニロのレビュー・感想・評価

本心(2024年製作の映画)
3.0
最近、TOHOシネマズの上映前にUber EatsのCM/今日も、誰かが、丁寧に/が流れる。「愛は勝つ」の歌が背景に流れ、配達員が爽やかに、お待たせしました。ウーバーイーツです、と届け物を渡す。配達員を演じる伊島青という女優を観ながら、町で屯しているウーバーの配達員は黒づくめのムサいおっさんばかりだぞ、と商品価値が損なわれるのではないかと余計な心配をしてしまう。ニュースなどでは、商品を購入する側からも、配達員からも、それぞれが問題を起こす余地のある仕組みだということが知らされる。そのひとつが最近流行りの評価というやつだ。

本作の主人公池松壮亮の仕事は「リアル・アバター」というらしくて、依頼者になり代わって何かをする、というようなもので、カメラとマイクで依頼者と繋がり、依頼者の希望に寄り添いあそこへ行ったり、そんなことをしたりする。で、終わった後に、依頼者が評価をする。低評価が重なり評価の平均値が下がると、あんたとの契約を解除いたします、と一方的に契約解除。池松壮亮はいたずらな依頼者からの依頼で評価を下げられたり、高級レストランで食事してお土産にその店のチョコレートケーキを持ち帰れ、という代行を必死に実行するんだけど、届けた先の女性から汗臭いと低評価を受ける。

という話が頭に残っているけれど、本筋は違うらしい。本作の日本は、自由死が認められる世になっていて・・・・・、『PLAN 75』っていうそれが主題の作品もあったので、もしやすると日本国内のどこかの高級サロンで、サイコパスの権力者が葉巻をふかしながら画策している、なんていうことが意図的にリークされているんじゃなかろうか。自分の死は自分で決められるんだよ、というような話。未来社会なのかパラレルワールドなのか、かなり絶望的じゃありませんか。

厚生労働省の2023年7月発表の国民生活基礎調査によれば、18歳未満の子どもの相対的貧困率は11.5%と、9人に1人の子どもが貧困状態にあるとみられるそうで、その資料だけでもその現実はそう簡単に改善されることはないだろうし、サイコパス達の施策は、人は道を歩くんじゃない人の上を歩くんじゃ、というものだからほったらかしのままだろう。

というような話でもなく、いかにもな食わせ者ぶりの妻夫木聡の作ったバーチャル・フィギュアの装置は、重ったるいゴーグルを装着しなきゃならないというギャグに笑うというような話でもなく、細身ながら豊満なおっぱいを曝した三吉彩花はバーチャル・フィギュアじゃあないよね、と問いただす話でもない。

タイトルは、母さんは何故自由死を選んだの、何故僕に相談してくれなかったの、というような意味で、冒頭の入水に見えた母親の姿の真実、それは実は、というような話に収斂していく。三吉彩花の三好彩花は、池松壮亮の高校時代のおもい人であり、かつ、彼女に起因する出来事で彼が今の境遇に陥ってしまったあの彼女なのか、という謎を踏まえつつ、その彼女を好きになってしまった大金持ちのリアル・アバターとなった池松壮亮が愛の告白をさせられたり、母親田中裕子が愛したのは女性で、人工授精で授かった子が池松壮亮であるなどと、あまりにも急激な展開に途方に暮れるわたしでした。それもこれも、妻夫木聡の娘が、バーチャル・フィギュアのバックドアを見つけたとかなんとか言い出したところからなのです。
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