ベビーパウダー山崎

自由の暴力 デジタルリマスター版のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

3.5
なんか久々に見返したら「ほのぼの」した映画のような気がした。お上品な渋谷のル・シネマで見るのがまた良い。まさに日頃ゴキブリみたいな身なりして腐った映画を見ている俺もこれで上流階級の仲間入りですよ。
身ぐるみ剥がされ路上で野垂れ死にするゴロツキ。分不相応は地獄への道。ファスビンダー得意の「愛と搾取」。
だが、その社会(のシステム)に殺される哀れな男をファスビンダー自身が演じているのは、どうもしっくりこない。この世界を作り上げた王(ファスビンダー)が道化師に化けられるほど「映画」は甘くない。まあファスビンダーも「自分を重ねるとすれば、オイゲン(奪い取る側)の方」とか言っているらしいので、そのあたりは冷静な鬼の作家で信頼できる。
ファスビンダー映画の馴染な役者が集合しているが、突然現れたイングリット・カーフェンがゲイバーで一曲歌っている終盤の異様さなんてファスビンダーにしか撮れないと思う。男と男の映画にもカーフェンやイルマ・ヘルマンなどファスビンダー組の女性陣もちょこっと参加していて好き。
モロッコでの白スーツでバッチリと決めたルックの素晴らしさ、高級車をふっ飛ばしている夜の光(画)の格好良さ。ファスビンダーが別れを切り出すさいの長回し、ここ、恋人と二人ではなく、もう一人(カールハインツ・ベーム)配置しているのが上手いなあと思う。三人のほうが確かに収まりよいし美しく映る。発想が「自由」なんだよなあ。
それにしても階級の上からドン底まで、キャラクターもセリフも、その醸し出す雰囲気まで、よくここまで書き分けられるよなあとホント感心する。知性と教養と容赦ない暴力の作家。