ひこくろ

アイミタガイのひこくろのレビュー・感想・評価

アイミタガイ(2024年製作の映画)
4.3
「小さな小さな奇跡」とでもコピーを付けたくなるような、とても素敵な佳作だった。

人の死。
それも特に大切な人の死を、人は簡単に受け止めたり、受けいれられたりできない。
思いきり号泣したって、暴れたって、吐き出したって、そんなことは何の解決にもならない。
それで昇華できてしまったりするのは、しょせん、お話のなかだけだ。

ここに出てくる誰もがそのことをわかっている。
だから、彼らは泣かないし、叫ばないし、暴れない。
ただじっと静かにその死を抱え続けている。
映画も叶海の死を決して劇的に描こうとしない。

前を向くことができない。
それでも彼らが生きていかれるのは、周りの人のやさしさがあるからだ。
死を受け入れらないで苦しんでいる人を、支えたいと願うやさしさ。
ただ単にそばにいてあげたいと思うやさしさ。
映画はさまざまな形のやさしさを描き、それを小さく小さくつなげてくる。

「アイミタガイ」はご縁。
人は一人では生きていかれない。
どこかで誰かの力に支えられ、誰かの力になっている。
それは映画の中では極端に描かれているが、鼻につかないのは根底にやはり「やさしさ」があるからだろう。

映画のようにはつながらないかもしれない。
直接、関係もしてこないかもしれない。
気づかないかもしれない。
それでも、人のやさしさはきっとある。
そう信じさせてくれることが、静かに胸を打つ。

役者さんたちの自然体の演技がこの映画の「現実感」をさらに強める。
人の死を乗り越えなくてもいい。そんな必要はどこにもない。
ただ、それでも前を向いて一歩踏み出すことはできる。
それを支えてくれるやさしさは、きっと誰のそばにもある。

じわじわと温かい気持ちになり、じわじわと涙が滲む。
そして、ほんの少しだけ小さな救いになる。
そんな映画だった。
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