メーサーロシュ・マールタ長編23作目。故郷ハンガリーの寒村で老母マーリアが倒れたと連絡を受けたオルガがウィーンから息子を伴って病院に駆けつける。病状に進展がない中で、オルガは息子にマーリアと自分についての出来事を語り始める。貴方の知る祖父シュテファンは祖父ではない、実際の祖父はハンガリー人貴族だったアーコシュという人物だ、と。しかし、回復したマーリアを問い詰めてみると、オルガすら知らない、思いもよらない事実が隠されていた…云々。全体的に"謎解き映画"っぽい構成にしちゃったのには疑問で、あまり乗り切れなかったものの、ここでも擬似的な親子関係やシスターフッドをテーマにしているのは興味深い。マーリアだけがウィーンに辿り着いた後で、アーコシュの従姉妹エディトという人物が現れる。彼女は駐留していたソ連兵アントンに命を救われ、彼の子供を身籠っていた。この残酷な対比はシスターフッドの中で解消される。DoPは『Diary for My Children』と同じく義息ヤンチョー・ニカなのだが、同作とは異なって、冒頭からめちゃくちゃチャラいカメラワークで笑ってしまう。そんな感じで、映像の質感は『ハンガリー連続殺人鬼』とか『この世界に残されて』のような、時代考証甘々な現代ハンガリー映画そっくりなのだが、流石はマーリアと同時代を生きた監督ということもあって、語る"歴史"の重みが全く違う。特に、これまでの作品はメーサーロシュ自身を"子供"のサイドに置くことが多かったが、今回は老母と自分を重ねているようにも見える。共産主義時代の生き残りとして、起こった事実を全て伝え逝くマーリアの姿を見ると、メーサーロシュは全てを絞り尽くしたと言っても過言ではないと思えてくる。原題の"オーロラ"はアントンの望郷の言葉から取られている。それは時空を超えて繋がり合う家族を支え導く光に違いない。