うっちー

アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方のうっちーのレビュー・感想・評価

4.2
来週のトランプの大統領就任に合わせたかのようなベストなタイミングでの公開。ケレン味たっぷりだし、今やNGな表現も80年代のまま表現されていて、痛くもあるが面白かった。

まず、本作をイラン人の新鋭監督、アッバシが務めている点が面白い。国籍的には反米的なはずだけれど、この監督は北欧で大学教育を受け、現在もスウェーデン在住なので、より第三者的視点でトランプ氏やアメリカを捉えているように思う。勿論トランプがロイ・コーン弁護士から仕込まれた競争に勝つためのアグリーな方法論の描写は皮肉混じりなのだけど、一方的なネガティブさだけではなく、人はある環境ときっかけがあれば意外に容易く変われるのだ、ということをわかりやすく示してくれているように感じた。トランプはその変容ゲームを乗りこなし、コーンを上回る悪辣な強さや冷酷さを手に入れてしまった人なのだと。

また、自分の言うことを聞き入れてくれなかった父を(敬っているように見せかけながら)見下し、アルコールに溺れて早逝した兄を反面教師にし、自分なりの反骨心やある意味での勤勉さを保ち、思い通りに事を運び、病気やドラッグなどで身を持ち崩すこともなかった。意志の力はつよくてそれを貫き通して事をなす才覚はあるが、同年代の他の企業家やアーティストなどに比べれば圧倒的に野暮で非文化的だ。また、体型から予想はつくが運動をすることもない(活動量のキャパが決まっているのだからわざわざ運動はしない論、笑ってしまう💦 医師に否定されても一向に聞き入れないのも凄い。専門家をはなから信じていない人なのだ。だから温暖化も嘘だと言えるのだろう)。

トランプにかなり寄せてはいるもののかなりかわいい感じのセバスチャン・スタン、そしてロイ・コーンに扮したジェレミー・ストロング、どちらも秀逸だった。特にストロングの演じる元気な頃のコーンは何者かわからないような不穏さと貫禄を併せ持つ。アグレッシブでありながら、獲物を待ち構えている蛇のような湿度のある冷酷さとヒリヒリする攻撃性を含んだユーモア。ホモフォビアを装いながら自らは同性愛者であるなど、複雑な内面も興味深かった。ルックス含めて怖いイメージのストロング、ちょっと検索してみた動画では極めて穏やかで顔つきも別人! 作品についての話も知的で魅力的だった(カットされたがカエルの被り物をまとったシーンも撮ったとか)。今まであまりチェックしてなかった俳優さんだが、過去作を観てみようと思った。

トランプについていちばん嫌だなと思ったのは女性に対する態度。猛アタックして手に入れた東欧系美女、イヴァナが意外にビジネスウーマン的であることが気に食わなくて、最終的には棄てるように扱う様が嫌すぎた。想像以上にミソジニー傾向が強いくて、そこはかなり問題に感じた。というか、自分以外の誰も信用できない人なんだなと感じた。

ほか、70〜80年代の褪せた色合いやアッパーめな(ダンスクラシック中心?)音楽もハマっていた。タイトルは若き日のトランプ=コーンの弟子、的な?意味合いからかと思ったら、それもあるかもだがトランプが昔やっていたテレビ番組名(アプレンティスだそう)でもあるそう。怪作かつ快作です。
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