凶悪殺人犯として逮捕され、死刑囚となった青年・鏑木慶一が脱走をし、日本各地を風貌や名前を変えて潜伏し、逃亡生活を送る。鏑木の事件を担当した刑事・又貫が鏑木を追跡するものの、鏑木とかかわった人たちの証言によると同じ人物とは思えない風貌と言動であったものの、いずれも鏑木の無実と信じる者ばかりだった。
『手紙』、『悪人』、『凶悪』、『正欲』とタイトル二文字のクライムサスペンス・ヒューマンドラマの邦画鉄板シリーズ。
『告白』『怒り』『楽園』とかも入れていいのかな。
観たことが人はこれらの作品と同じジャンルだと思って観れば、裏切られることはないと思う。
とにかく、逃亡犯を演じた横浜流星の演技に脱帽させられる。
以上、観てない人向けのネタバレなし。
以下、ネタバレあり。観た人向け。
序盤の焦点は、鏑木が真犯人かどうか。
真犯人ならば『悪人』や『怒り』の展開で、動機と逃亡の理由が次の焦点となることが予想がつくが、鏑木の冤罪が濃厚で話は進む。
中盤以降は、鏑木の逃亡の目的がミステリの焦点となり、そして鏑木の冤罪が確定的になってきたあたりから、『凶悪』や『怒り』の如く、冤罪の青年が死に追いやられる胸糞バッドエンド展開になりやしないかと最後までハラハラさせられた。何だか、観客が先読みするのを逆手に取られているような気がした。二文字シリーズの「お約束」が多かった映画とはいえ、飽きずに観ることができた。
そして、支離滅裂に思える逃亡生活を送った鏑木の心理の変遷もちゃんと種明かしもされ、辻褄が合うようなっていたと思う。
潜伏先で見た同一人物とは思えない鏑木のキャラクターは、風貌や言動、行動を変えたとしてまぎれもなく鏑木であるという帰結も悪くない。よく、本当の自分はどうだとか、言う人がいるが、人間も見る角度を変えると別人に見えるのは不思議なことではないが、どんなに顔を使い分けてもその人の核心的な部分は出てしまう。それが「正体」なのだ。
逃亡犯でなくても家族、職場、友人などに別の顔を見せていても、絶対に隠せない部分がある。それが「正体」なのだ。