『深紅の愛』のような動き回るキャメラではないことに驚く。あのキャメラワークは作家的特質ではなく題材から選びとられたものであった。
『境界なき土地』は、町の土地一帯を買い占めようとする権力者、その人物に育てられたという荒っぽい男、物語の主要な舞台である娼館で生活を営む複数の女性とゲイといった複数の人物により描かれる群像劇であるが、男性性と権力が主題となる。それが溶解しかけるダンスのシークェンスの緊張感と充実ぶりは映画全体のなかでも頭抜けたものがある。また、唐突に回想(だが登場人物の誰かが思い返しているというのではない)が始まる散文的な処理には吃驚させられる。