ジョージア映画祭11本目。
数日前に観た『19世紀ジョージアの歴史』とは打って変わって本作は『ひとめ惚れ』というタイトル通りの内容ではあるのだが、中々そのタイトルから予想されるような恋愛ドラマにはいかなくてやきもきした。やきもきしたが、でもこの映画で面白いところもその部分だったので何というかストレートな恋愛モノとしてはまぁまぁかなくらいだったんだけどトータルでは結構面白い映画だな! ってなりましたね。そういう点では変な映画だったとも言える。
お話は自体は『ひとめ惚れ』というタイトル通りに分かりやすくストレートなもので、主人公はアゼルバイジャンからの移民だったか混血だったかの高校生くらいのサッカー大好き少年なのだがその少年が年上の大学生のおねーさんにひとめ惚れする。だがそのおねーさんには恋人というか許嫁的な相手がいてどうなる少年の恋!? というお話ですね。ちなみに少年の方はあまり裕福ではなさそうな家庭なのだがおねーさんの方は富裕層というこれまた恋愛モノの鉄板設定としての身分違い的な要素もある。
まぁしかし概してこの設定だけ見ればド王道の恋愛物語にしか見えないと思われるだろうが、上記したように本作は少なくとも俺にとっては恋愛モノとしてのメインの主役二人よりもその周囲の描写が面白い映画でしたね。どう考えても主人公は二人の若い男女なのに周囲の大人たちの異常なほどのエネルギッシュさと騒々しさとカオスさばかりが気になって主題の恋愛パートが頭に入ってこないほどであった。いやホントにそこが凄いんだよ。映画の冒頭からして、町のおじさんたちがなんかのお祝いだったか忘れたけど羊を捌くだのなんだのと言って大騒ぎを繰り返すのである。「お前ちゃんと捌けんのか?」「あたぼうよ!俺を誰だと思ってやがる!羊の一頭や二頭!」みたいな掛け合いをしながら見物人たちがガヤガヤと集まってきて長屋とか団地的といった下町空間の中で羊を巡って地元の町人たちの騒ぎが巻き起こるのである。
それが大体5~10分くらいはあったのではないだろうか。その間主人公の少年も彼が恋するおねーさんも出てこない。本作のランタイムは90分なので大体9分の1くらいは主人公不在のまま羊を巡るおっさんたちのワイワイガヤガヤで消費されるのである。何映画だよ? これ、という感がすごい出だしなのだが、そこが面白かったですねぇ。主人公がアゼルバイジャン人というのも効いていて、かつての九龍城砦とまでは言わないが非常に雑多で何世帯が入っているのか分からないような継ぎ接ぎされたような集合住宅が舞台になり、上記したようにそこでの日々の喧騒が大きく取り上げられて活写されるわけだがそこに恋愛という非日常さとのギャップが大きく描かれていて良かったんですよ。
キラキラときらめいて純粋に貫かれる少年の初恋(かどうかは知らないがそういうことにしておく)的なひとめ惚れと共にやかましい団地的空間の中で人生半分終わってるおっさん共が人生半分くらい終わってるくせに喧しくエネルギッシュに日常のしょうもないことで騒ぎ続けているのである。もう映画の主題である恋愛パートなんてそっちのけてなもんである。
んでお約束だが少年の恋、それも相手のいるおねーさんへの恋なので道ならぬ恋でもあるのだがそれが周囲の下町的ガヤガヤおっさんやおばさんを巻き込んでいくのだから、まぁ面白い映画でしたよ。肝心の恋愛パートがやや盛り上がりに欠けるとかろはあるけどメイン二人の周囲の環境の描写が面白いのでむしろ物語の本筋が薄いのはあんまり気にならなかったですね。
まぁそういう感じの映画なのでストレートな恋愛モノというよりもですね、なんていうかな、○○さんちの坊主が山の手のお嬢さんに惚れたらしいぞ! マジかよアイツ身の程知らずだなー、どっちに賭ける? 俺はフラれる方に賭ける、ズルいぞお前俺だってフラれる方に賭けるよ、ってな感じで地元の半分くらい人生終わってるおっさん共が顔見知りのガキを生暖かい眼で見守ってるみたいな雰囲気があって俺としてはそこが好きでした。しかし上記したように肝心の恋愛パートはそんなに盛り上がらないんですよね。ラストも大分あっさり目だった。
でもまぁそれも含めて良かったですよ。最高! ってほどではないが大体は面白かったです。
あ、あとよく覚えてるのは本作は少年とおねーさんの肌がどちらも美しくて良かったな。肉感的なエロではなくてさわやかで綺麗な身体をしてるんですよね。大人共は大体臭そうだったけど。そこ印象に残りましたね。そういうビジュアルは初恋としてのひとめ惚れの淡い美しさを描いたところだったのかもしれないですね。