テレビドラマ版を全話見たことがある身から言わせてもらうと、これ以上ない劇場版だったと思います。このシリーズに限って、人気にあやかったテキトーな映画なんて作らないだろうという確信はありましたが、ちゃんと見応えがあってかつシリーズを少しでも知っている人なら全員楽しめるであろう素晴らしい作品に仕上がっています。
思い出のスープの材料を探すために井之頭吾郎が世界中を飛び回る!というトリコみたいな脚本ですが、その道中が劇場版ならではのぶっ飛び具合で面白いです。フランスのおしゃれな街並みをかなり良いセンスで捉えるショットの多い大人しめなトーンで始まり、今回はこのくらい落ち着いた展開をしていくのかなと思いきや、ミッションが発表されるや否や「ハラヘッタ!!!!オイオイオイ!!!!ハラヘッタ!!!!オイオイオイ!!!!」の騒がしすぎるイントロが流れその足で食材探しの旅に出るジャンクな展開はドラマシリーズのいいところをそのまま引き継いでいるようで最高です。なぜか漂流して韓国に行ったりするので、そのトンチキさが愛おしい。
ドラマ孤独のグルメは行く先々で現地の人々との食を通した交流が...みたいなヌルい展開になることはほとんどなくて、そこでのディスコミュニケーションが描かれている作品だったと思いますが、映画では人との連帯を描きながらちゃんとその線引きもされている温度感だったと思います。今まで1人でモノローグを語る吾郎さんを我々視聴者が眺めていたわけですが、映画では半ばメタ的に物を食べる吾郎さんを見ている人がいる、というシーンが多く、それが1人で物を食べることはできるが、決して1人だけでは食べることができないと本シリーズの隠しテーマを表しているようでした。それを料理してくれる人がいて、食べる人がいる、ということが食べる姿だけで伝わってくる、松重豊の真骨頂。ユ・ジェミョンに見られながら食事するシーンのコミカルさから、まさかの吾郎さん自身が『孤独のグルメ』を見させられるというとんでもないメタ展開まであって、シリーズを見続けてきた身としてこれ以上ない映画だったと思います。
ダニエルがしれっとパーティメンバーに入っているのかなりいい。
劇場のいい音響で聴くと吾郎さんのモノローグに重低音がのり非常に聴き心地がよい。松重豊のスタイルが良すぎるので空間を広く使ったショットも映えるね。これが松重豊自身が監督してるってんだからよりスゴみがある。
欲を言えばエンドロールの曲は井之頭吾郎のテーマを流して欲しかったし、ふらっと久住劇場版もあるか!?と思ったけど別にそういう映画じゃないしね。ポン・ジュノに監督をお願いしようとしていたという話は本当なのだろうか。言われてみればパラサイトっぽいカットもあったな。