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CURE キュアのmorettiのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
5.0
10代の終わりの頃に観て、腰を抜かした映画です「CURE キュア」。早稲田松竹様で久方ぶりに観てきました。
いやー、時間淘汰で褪せることなく、いまだに鋭敏な恐怖を放ちまくってました…なんちゅう映画強度。

スピルバーグとジャッキーとシュワルツェネッガーでのんきに育ち、キューブリックや小津やタランティーノや武をワクワクしながら理解し始めたくらいでこのサイコサスペンスを喰らい「あ、なんかヤベ…」と映画の深淵を覗いてしまったような感覚にガクブルしたのを覚えております。
ある意味で映画観が変わりましたよね。

それから4、5年は黒沢清一辺倒でした。
そんなわたし的な映画のマイルストーンに再会し、やっぱり「あ、なんかヤベ…」となったことです。
でんでんが同僚警官を射殺するところの不穏な呆気なさは、なにかこの世の禍々しさを写しているような気がします。

当時のサイコサスペンスといえば「羊たちの沈黙」や「セブン」が強烈な磁場としてあったにもかかわらず、まったく別のアプローチで同レベルの傑作になっていることは特筆すべきかも。

というか、スリルもサスペンスも後ろに隠して〝おそろしい〟に全振りした広義のホラー映画ですよ。
画面の隅々に迸る黒沢清の恐怖演出。そして映画というメディアの即物性と暴力性を冷酷にナラティブに落とし込んだ物語。
この90年代後半の黒沢清や中田秀夫や鶴田法男たちの仕事はいまだに日本の映画界に谺してるよね。
その観点でも本作が屹立した祖であるところを久しぶりの鑑賞で確かめました。

黒沢清は廃墟やそれに近しい古びた無機質な空間を好んで虚無的に使いますが(撮影の都合もあるでしょうけど)、本作ではこれでもかというくらいに虚無空間が登場して楽しかったです。
このロケーションの妙が黒沢清映画の独特のフィクションを成立させている気がします。
観ているのは現実そのものなんだけど(だって実在するブツや人を撮っているわけだから)、無機質で低体温で不穏な映画空間がそこに現出する。
そしてそこにニンゲンがいる、という恐ろしさですよ。

あと本作においてはキャラクター描写の秀逸さね。特に刑事である高部と容疑者である間宮のストレスフルな関係性の変化がフツーに面白いです。
間宮はサイコパス以前に人をイラつかせる天才。そして萩原聖人がめっちゃハマってるよね。迷子の子犬のような風体で現れてメフィスト的な得体の知れなさを発揮していくのが超怖いです。

高部のサイドキック的なうじきつよしは、なにきっかけでこの映画にキャスティングされたのかわからないですけど、上手くも下手でもない量産型朴訥演技が妙に異質で、そこが久しぶりに観て面白かったです。はは、おれなにやってんだろうな!という狼狽演技が超好き。

そうそう、黒沢清の映画を熱心に観ることでででんでんや蛍雪次郎や戸田昌宏や諏訪太郎の顔と名前を覚えましたね。日本映画を観る楽しみを増やしてくれました。
(歴代の日本アカデミー賞で唯一テンション上がったのがでんでんさんが助演男優賞を獲った時です)

そんな感じで稀代の傑作をスクリーンで観られて大満足なのですけど、やっぱりエドワード・ヤンの「恐怖分子」を色濃く感じるので、そこらへんの影響とかあるのかないのか知りたいです、教えてえらい人!
なんなら黒沢清様ご本人でも。
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