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名もなき者/A COMPLETE UNKNOWNのGyGのレビュー・感想・評価

名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(2024年製作の映画)
4.0
映画は、ボブ・ディラン(BD)を乗せた車がマンハッタンらしき橋をわたるところから始まり、これから住むであろう街を巡り、難病で入院中のウディ・ガスリーを見舞いにいくシーンへとつながっていきます。

BDは病室に入り、軽い挨拶をすますやいなや、”Song to Woody”をうたいだす。
初対面の若者がフォークの大家を前にして臆面もなく歌うだろうか?
しかし、ウディと傍らのピート・シーガーは呆れるどころか、たちまち彼が歌う世界に魅入られてしまった。

なぜか 
その歌詞⬇️ もメロディー⏬もウディが作ってきた音楽と近しくウディへのリスペクトが自然に伝わってくること、さらにはBD自身の旅の始まりを素直に宣告しており、ウディたちの心にストレートに入り込むのはしごく当然で、みてるこちら側もその現場に立ち会っているかのような感動を与えてくれた。
音楽に対するBDの基本姿勢がこのシーンでみえた気がしました。

その後は、エピソード部分はスキット風にまとめ、ドキュメントを散りばめ、BDが当時の社会・国際情勢の中で実際どのように音楽に向き合っていたかを描き、’65ニューポートのフォークフェスでのエレキギター’革命’へと流れていく。
ラストのエレキを手にしたのは確信的だったのがわかる撮り方にしたシーンもあるが、全体的には淡々とした描写となっている。

コマを’革命’の前に戻して、ボイド・ホルブルック演じるジョニー・キャッシュのシーン。
ステージにあがり、あの有名なThe Johnny Cash Gun Poseで歌う姿、もちろん演技ではあるけども、もう虚とか実とかの壁をのりこえ、超絶カッコいいヒルビリーそのものになっていた!
あんなステージを一度は生でみたい。

極私的感想をひとつ
BDのアパートメント一室で彼とジョーンが互いに欠点を言い合うシーン、DBがチェルシーホテルの彼女の部屋へ無理やり入り込んだシーン。ここをつなぎ合わせると、水面しかみてなかったジョーン・バエズの”Diamonds & Rust”に、すこしアタリがきたように思えて、つまりは... BDには輝くダイアモンド成分とヴァガボンド成分があって、彼女のいうrustはそのヴァガボンド成分にひそむ負の部分=無神経カス野郎を指しているようであり...そうするとあの曲は”天才さん、しなやかなリリックをつくってよ、光も影もぜんぶ含めてね”に思えてきました。
ジョーン余裕です。
以上


以下は、本文注釈⬇️と⏬と 追加メモ



⬇️
”Song to Woody”のおぼえ書き
//長い道のりをこえて
ウディ、ぼくはあなたに会いに来た

あなたが教えてくれた世界をみてきた
歌も作った
だけど、この奇妙な世界にいる病み餓え疲れた人たちのことをあなたほどうまく伝えられない
いくら歌ってもあなたほどには上手くいかないのだ

そんなあなたとあなたの仲間たちに乾杯を捧げ
ぼくは明日でも今日でも前に進みたい
いつかどこかあなたが辿ってきた道を歩みたい
過酷な旅になるのはわかっている
だけどぼくは行く
ウディ、そのことを最後に伝えておきたい //
※字幕と耳に残ったワードを足して2で割って、さらに前後の意味を圧縮して脳内編集をしたワケワカメ天日干し意訳也

”Song to Woody”のメロディーはウディの名曲「1913 Massacre」をベースにしています。 

追加メモ
BDが日本で知られてきたのは
・1960年代後半からで、京都は早かった
・そこには片桐ユズル・中山容という、さりげない、しかし強力な理解者がいたこと、ほんやら洞、KBS京都、ラジ関などがよく取り上げたから伝播していったと考えられる
・日本全国へは、主にNHK-FMリクエストコーナーの石田豊DJ(テーマ曲:真珠貝の唄。前任者は関光男DJ テーマ曲:looking for a star)から伝播していった
・関東は広いので、京都盆地のようなスポット性はもたずスポラディックに存在していた模様
・当初は彼のナザル(鼻声的な声)、ダミ声(dummy voice)を嫌う人もいたが、1969年”ナッシュビル・スカイライン” ではスィートな声(いわゆる美声)も加わり、ファン層の拡大につながった
・誇大妄想はよくいわれるが、韜晦ないし自己否定の傾向もあるようだ
・BDの人物像が描きにくく、音楽性が複雑に変遷するのもこの双極性によるものか

モニカ・バルバロの歌唱法
・縮緬ビブラートができるから、含羞・切なさが表現できる繊細なシンガーになれそう
・娼婦も少女の声も出せるといわれたマリー・トラヴァースもチリメン発声ができた
・ジョーン・バエズのビブラートは端正であり滑らかに減衰するタイプ
・ジョーンとマリーがデュエットする動画あり、両者の持ち味がわかる

公開された動画をみると
・ジョーンとジュディ・コリンズがクスクスしながら”Diamonds & Rust”をデュエットするシーンあり
・昔BDのカス男ぶりを聞かされたわね的笑い、ジュディ姉さん事情通!

その他
・本作中盤、BDの担当マネが頬を膨らませた瞬間、うぉっディジー・ガレスピー似だ!→ダン・フォグラーもディジー似→ダン適役!
・リアルBDの担当マネ氏アルバート・グロスマン、この方もディジー似→ダン適役!
 ※アルバートさんはニューポートフォークフェスを立ち上げた実力プロデューサー
・ピートはレイシズムや移民差別問題に取り組むactivistでもあった
・トシは日系人であり、映画製作やハドソン川などの環境保護などに関わった人である
※当初の書き込み「トシは日本人ではない可能性あり」を上記のとおり修正
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