題名に「虫」(正確には蟲)とついているので、虫、特にヌメヌメ動く系の虫が苦手な自分は、ちょっと迷いながら、キャストと、城定秀夫作品という点で、思い切って?観ることにしました。
不安だった虫は、そこそこ出てくるけど、メインではないので、結果安心して、最後まで楽しく?観られました。
(ホラーで安心するってのもなんだけど・・)
総体としては、いわゆるフォークロアホラーといわれるジャンルだと思うのですが、田舎に移住した若夫婦が、最初は人々の優しさや共同体としての緊密さに喜びを感じるのだが、次第に・・・という、まあ、よくあると言えばよくある立て付けの物語なのですが、楽しく見せる工夫がきちんと詰め込まれていて、とにかく飽きることなく最後まで引っ張って行かれました。
演出というか編集というか、とにかくテンポがいいのと、切れ目が鮮やかなんですね。
たとえば一例として、追いつめられた主人公(夫の方)が「ちょっと行ってくる」と言って出ていって、場面が変わると、村の指導者の眼前で頭を畳にこすりつけている。
もうこれだけで展開の意味(軍門にくだったということ)が瞬時にわかるんです。ストーリーを追っていけば、まあそうなるよね、と思うんですが、どれだけムダな説明を省くか、ということを考えて、こういうカッティングになっているんだろうな、という部分が多数あって、ホラーでいやな話なんだけど、映画として心地よく観られるっていう、そういう変な喜びがありました。
あとキャスト陣の好演。まず若夫婦が田舎でエラい目に遭うわけですから、当然男が戦うのかなと思ってみていると、最終的には妻(深川麻衣)が知恵と力を駆使して戦うんですね。
これが実にカッコいい。やはりホラーでは女性が戦うとアガりますね。
一方夫の方、若葉竜也は、彼の持ち味である、クールなのか優柔不断なのか、頼りになるのかならないのか、どっちにでも転びそうな感じをうまーく出して、ホントにこの役にぴったりでした。
もちろん、田口トモロヲの怪演は、観た方誰もが絶賛すると思うので、細かくは触れませんが、彼の滑舌のよさと、必要以上にイントネーションを上下させるしゃべり方に加えて、顔技がすごい。
田口トモロヲを堪能する映画でもあります。
というわけで、物語として特別優れた映画ではないのだけれど、映画としての腕と、演技を観る上では大満足の一本、と思います。
(夫婦別姓へのコミットとか、男の暴力性、集団の他者排除性とか、テーマもうるさくない程度に感じられ、ちゃんと「現代の映画」になってもいると感じました。)