写真家 深瀬昌久 の実人生に着想を得た物語。
深瀬昌久もその作品もまったく知らずに観賞したが、これが、二日続けて劇場に足を運んでしまうほどの出来 (ファーストディということもあるのだが)。
いきなり登場する「鴉」に観る側のチューニングを合わせよう。これは、文字通り「鴉」に導かれた写真家の人生譚なのだ。
彼の作品を再現した映像を要所で挟みながら、淀みなく進んでいく物語に身を委ねる幸福感。全編を通して、シネスコの横長画角を生かした画作りが際立つ。ミューズ役の 瀧内公美 も、『敵』以上の存在感を放ち全てのシーンで美しい。
高圧的だが小心な父親に、長男が可愛い過保護な母親。この親子関係を描くカットがどれも秀逸。父親の前では「息子」に戻る 浅野忠信 と、場を引き締める 古舘寛治。この二人の演技合戦も見どころの一つ。
そして何より、The Cure「Pictures of You」のイントロで始まるラストのシーケンスにヤラれる。もう、これを観るための映画と言っても良いくらい。
監督・脚本・プロデューサーを務めたのはマーク・ギル。日本的な湿った人間関係が見事に表現されていて、観ている間、外国人監督の作品だと感じることがない。それが一転バタ臭くなるラストが、だからより一層際立つ。
苦手な人もいる作品と思うが、極上の終映後感の傑作というのが個人的な感想。ちょっと変わった映画が好きならおすすめ。